2011/05/31

今月の”読んだ!” ~2011.5月~

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 5月に読んだ本たち。何冊も併読しているので実感としてもっと読んでいる感じがするのですが、読み終わったのは4冊。まあ少ないですね。仕事している時間のほとんどをPC上の活字に持っていかれているのは非常にもったいないことだと自分でも強く思うので、そういうくだらん時間(笑)をなるべく圧縮して、創意創作の時間と、そのためのインプットの時間を大きく確保できるようなライフスタイル模索が、6月のひとつのテーマかも知れんですね。


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bittersさんの本棚
2011年05月
アイテム数:4
Twitterでビジネスを加速する方法
樺沢 紫苑
読了日:05月10日
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ソーシャル・ネット経済圏
日経ビジネス,日経デジタルマーケティング
読了日:05月13日
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「裸のサル」の幸福論 (新潮新書)
デズモンド・モリス
読了日:05月31日
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 流行もののスタディのための3冊と、流行を超越した内容の1冊。特にデズモンド・モリス著【「裸のサル」の幸福論】はなかなか興味深い内容でした。デズモンド・モリスを知ったのは、noproblem school でお世話になってコピーライターの小霜和也氏がきっかけ。「ターゲットのインサイトをどうのこうの論じる身であるのならば、アンケートとかトレンド以前に、人間の普遍的な感情・衝動・本能に対しても理解を深めるべきでは?」という示唆の文脈で紹介されたわけです(そのとき紹介されたのは同氏著【裸のサル】)。その指摘は個人的にはとても納得感のある重厚な指摘に思えて、それ以来、動物行動学・文化人類学やそこから派生した身体性について、強化トピックとしてアンテナを張ってはいたんですが、肝心の紹介された本をイマサラ読んだというわけです。

 内容については是非本著を参照されたほうがいいと思いますが、「普遍的に気持ちいいこと」をしっかり視野に捉える習慣を持ちながらコミュニケーションプランニングしていきたいと改めて思った。それと同時に、この類の本で学問していくのも大事だけど、元々この手の学問は学際分野であることが多く、確たる結論が出ていなかったり、学説が確立されていなかったりすることもあるので、「自分の体感を呼び覚ます経験を、積極的に日常生活でする」ということを意識しようと思うわけです。伊藤直樹さんにも言われたことだけど、「自分の体感に基づく、気持ちいいこと・幸せなこと」をちゃんと自分の身体で体験する経験をする。そしてそれをいろいろな切り口で豊かにすること。それが、人を気持ちよくさせる企画を作る最良の糧になるのかなあなんて思いましたとさ。

 本のレビューの記事でいうのもなんですが、「本ばっか読んでないで、身体が喜ぶことしようぜ」ということ。あ、でもまあ「読書」という行為にも列記とした身体性はあると思いますので、それはおいおい書きます。自分の場合は、バンドと、自転車と、水泳が大きいかしらね。ま、あと読書も。


 6月は、もっと本を読もう。長雨を窓から見ながら本を読みたい、そんな季節です。

2011/05/30

今月の”観た!” ~年間100本切りへの道程~

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5月ももうおしまい!というわけで、今月観た映画のおさらい。今月は9本ということで、チャレンジ中の年間100本切りから逆算すると、平均的なペース。でも5月終了時点で40/100なので、6月に10本観ないと、ペース的にはちょっと遅れ気味。長梅雨だということなので、映画たくさん観たいとこ。


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aginさんの本棚
2011年05月
アイテム数:9
羊たちの沈黙〈特別編〉 [DVD]
ジョナサン・デミ
読了日:05月09日
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ディパーテッド [DVD]
マーティン・スコセッシ
読了日:05月09日
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なくもんか 通常版 [DVD]
水田伸生
読了日:05月09日
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ハスラー [DVD]
ロバート・ロッセン
読了日:05月09日
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007 / ダイ・アナザー・デイ [DVD]
リー・タマホリ
読了日:05月09日
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エレファント デラックス版 [DVD]
ガス・ヴァン・サント
読了日:05月09日
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レスラー スペシャル・エディション [DVD]
ダーレン・アロノフスキー
読了日:05月15日
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ブラック・スワン (ナタリー・ポートマン 主演) [DVD]
ダーレン・アロノフスキー
読了日:05月19日
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 今月観た作品から感じたことは、「演じる」ことの業の深さでしょうか。その人は紛れもなくどの役であるか以前に「その人」であるはずなのに、自分以外の人間を生き表そうとする、業の深さ。今月の個人的No.1だった【ブラック・スワン】で強く感じた、”自分以外の人生を生き表すことの狂気性”。その人の中にその人ではない人格を強く取り入れれば取り入れるほど、その狂気性は強くなるような。


 翻って、1999年コロンバイン高校銃乱射事件を描いた【エレファント】。プロの俳優は大人の3名のみ。他、大勢の生徒たちは全員、この映画以前に役者業をやったことがない子供たちで演じられている。役名も全員、役者本人の本名であり、趣味や特技・性格描写などもその役者の”その人”をそのまま活かしたプロットになっている。つまり、ガス・ヴァン・サントはこの映画でなるべく、”演じない”演技をさせたわけです。

 【羊たちの沈黙】のハンニバル・レクター博士役で一躍、サイコでホラーな怪優になったアンソニー・ホプキンスは、自我を極限まで抑制しその役柄を徹底リサーチ・追体験した上で演技をする”メソッド演技法”について、「リアルさを追及するが故に表現技術のメリハリに欠け、即興性に頼りすぎている」という批判を「アクターズ・スタジオ・インタビュー」で述べている。リアルであることへの追求からは、レクター博士という鮮烈なキャラクターは生まれなかったのかも知れないということかもね。

 僕自身、バンドで他の人の楽曲をカバーすることがほとんどだったキーボーディスト。「その曲本来の良さを学び得るために、自分自身の色を一旦無にするくらいのつもりでカバーする」極と、「曲はあくまでモチーフと捉え、そのモチーフを自分自身がどのように解釈して表現できるかを模索する」極。その両極のバランスはいろいろ試行錯誤してきた経験がある。どちらが正しいとかそういうんじゃないんですけど、ひとついえるのは、その両極の触れ幅を知っている人は、結果として、「自分」についてより自覚的でいられるような、一種のトレーニングを音楽でも演技でもある切り口から体験したことがあるといえるんじゃないでしょかね。


 極限まで役を演じきるためにその役の人生を追体験しすぎたが故に破滅していった【ブラックスワン】のニナ。その役を演じさせる上で、もっとも”演じる必要がない”キャスティングとプロットを用意して挑んだ【エレファント】のガス・ヴァン・サント。演じる上で、自然であることが必ずしも演技として面白みがあるとは限らないという【羊たちの沈黙】のアンソニー・ホプキンス。演技の奥の深さと、それを追求し愉しむ人間の業の深さなんかを考えた、今月の9本でした。



 【ブラックスワン】【レスラー】【羊たちの沈黙】【ディパーテッド】あたりが良かった今月。何かオススメがあったら是非是非教えてください。あと、”演じること”についての一人考察はこれからも続けます。何か感じること・思うことがある方はコメントいただけたら、いろんな意見が聞けて面白いかなと思うので、コメントお待ちしてますます。んではー。





2011/05/27

ジェファーソン記念碑のお話

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個人的にとても好きな逸話を、今日はなんとなく紹介。

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ジェファーソン記念碑のお話

ワシントンDCにある、アメリカ建国の父【トマス・ジェファーソン】を称えた
【ジェファーソン記念碑】なるものがあります。

そこに、碑文が刻まれた大きな石碑があるのですが、
その文字が最近、磨り減って見えなくなってきているということで、
アメリカ政府は石碑の建て直しを検討します。
予算占めて2億円。
検討委員長にある男が任命され、建て直し計画は進みます。

ただ、その男は単に新しい石碑を発注するのではなく、
「なぜこんなに石碑が磨り減るのか」ということに疑問を持ちます。
そこで、個人的にその原因を”探偵ごっこ”のように究明し始めました。

ここ数年、急激に石碑が磨り減った原因は単純なことでした。
「掃除夫の磨きすぎ」
男は磨く頻度を減らすよう、検討委員会に挙げることを検討します。
人件費の削減にもつながるし、一石二鳥だと。
でも、男は踏みとどまって、
「なぜ掃除夫はここ数年、磨きすぎるようになったのか。」
を考え始め、実際の掃除夫にヒアリングをします。

これまた、答えは単純なことで、
「ハトのフンがここ数年、特にひどい」
ということでした。フンで汚れてしまって、掃除せざるを得ないと。
空砲を撃って追い払う・エサやり禁止を厳格化するなど、
お金はかかるけど、しょうがないと。
でも、また男は踏みとどまります。
「なぜ急にそんなにハトが増えてしまったのか。」
掃除夫だけでなく、記念公園によく来る一般の人たちにもヒアリングします。

答えはすぐに見つかります。
「そういえば、クモがとても増えてきている気がする」
言われてみれば、木にクモの巣が蔓延っています。
そしてそのクモは、ハトのエサになっているだろうと。
では殺虫剤を定期的に撒いてクモを除去すればいい。
お金はかかるけど、掃除が減ればそれもよしとしよう。
委員会がそうなろうとしてもまだ、男は踏みとどまります。
「なぜ、クモは増えたのか。」
まだまだヒアリングは続きます。

小さい頃からずっとナショナルモールに通っている人にヒアリングして、
その答えはようやく分かりました。
「ここ数年、ガがとても多くなった」
クモはそのガをエサにし、そのクモをハトがエサにし、
結果、糞害がひどくなって掃除夫は石碑を磨きすぎていたわけです。
一件落着、ガを殺虫剤で殺すべし。
ところが男はまだ粘ります。
「なんでそんなに急にガが増えたわけ?」

この答えはヒアリングでも出てきません。
考えすぎて夜になってしまったナショナルモールを歩きながら、
男は気づきます。
糞害がひどくなってきた3年前とちょうど同じタイミングで、
石碑の周りのライトアップが始まったのでした。
原因は、その灯り
灯りに引き寄せられてガが集まってきてしまっていたわけです。

では、解決策は??
男が委員会に出した答えは、
「17時からのライトアップを1時間遅らせる」
ジェファーソン記念碑のライトアップは、
ナショナルモールのほかのライトアップより早い時間に始まっていたのです。
しかも夜行性のガが飛び立つ”ラッシュ時”にドンピシャでかぶってしまい、
だから、そこだけにガが集まってきてしまっていた。

ライトを一時間遅らせると途端に、
糞害はおさまり、石碑の磨耗もおさまりました。
一時は石碑新調で2億円かかるはずが、
ライトアップを毎日1時間短くすることによって、
光熱費削減によって、計5000万円の支出で済んだそうです。


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この話は、うちがnoproblem school の二期生だったころ、特別講師として授業を持っていただいたWieden + Kennedy TOKYO のストラテジックプランナー・吉田透氏が話してくれた逸話。細かいことが事実なのかどうかはあんまり重要ではなくて、吉田さんが言いたかったのは・・・

『物事の因果や真相は、どこでどうつながっているのか、分からない。だからこそ、面白い。この話だって、聴いてて面白いでしょ??「なぜ?」を繰り返すことによって、最善手は見出される。』

吉田さんが言う、”好奇心”と、伊藤さん(詳しくは前回投稿を参照)が言う、”企画を詰めきるしつこさ”。【原因】と【解決策】という対象の違いはあれど、「どこまで慮れるか」こそ、まだ世の中にない新しい価値を生み出す上で必要な心構えなのかもなーなんて思ったとさ。

慮るのって、大変なんだよね。でも、誰も気づけていないことに気づけた瞬間はサイコーに面白いし嬉しいと思う。「だったら、君はストプラに向いてるよ」って吉田さんに言ってもらえたのはとても心強かったんよね。頑張ろう、っていう自分のお話でした笑


2011/05/26

東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.02 伊藤直樹氏 (2010/10/11)

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前回までのログ


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初回の授業(2010/10/04)は学科長の伊藤直樹氏から、アイデアの発想術についての講義でした(詳しくは上記過去ログ参照)。今回は伊藤流「企画の思考術」の後編、「アイデアを実現するコツ」について講義。アイデア発想法については関連書籍も多く出ているジャンルですが、そのあとの実現フェーズについて、伊藤さんの生の話を直接伺えたのはとても濃い経験になりました。


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現実的か、夢をみるか


最初にまず前回の宿題、「アイデア11訓で、自分が得意なフェーズ・苦手なフェーズを考えて理由と共に発表しよう」からの始まり。30人弱の生徒がそれぞれ発表したんですが、【数出すのは得意だが、どれも荒唐無稽すぎて形にできない】【最初から実現可能性にとらわれて、新しいアイデアが浮かばない】【ついついアイデアに固執してしまって引き算が出来ない】【どれがいいアイデアなのか、自分の中で判断が出来ない】などなど、いろんなタイプのアイデアリテラシーが出てきたわけです。

大別してしまうとつまりは、発想の段階では【夢か、現実か】の大きな究極の選択があり、非常に難しい問題だと伊藤さんは言います。二極のバランスをいかに自覚的に行ったり来たりできるか、自分の傾向を理解できているかこそが唯一の対策であって、そのための宿題だったというわけ。 プロセスを一度わけて考えるようにすると、整理がしやすいかも。 

僕もそうだったんですが、日本人は、リアリスティックすぎて、面白くない傾向が強いと、ワイデン+ケネディでグローバルチームに身を置いて改めて感じたと伊藤さんはいいます。どうしても“空気を読んだアイデア”になりがちだと。それに比べて外国人は、無邪気でフィジビリティが飛んでる、“翼が生えたアイデア”を出す人が多い。特に僕みたいな典型的日本人的アイデア体質の人は、自分のクレイジーを引き出す方法を知ってると強いと伊藤さん。「風呂場で熱唱する」「自動車で高速道路を飛ばす」「ゲームやる」などなど、なんでも手段は問わないので、“理性のリミッターを外して子供に戻る時間”を意識的に持つことは、大いに発想の栄養になるということでした。



無邪気さを超える


リミッターが外れた状態で生まれる、【無邪気なアイデア】は言い換えると、【構想されてないアイデア】。“二ヶ月続けるのに、ある一瞬しか考えてないキャンペーン”とか、“店頭のことだけ考えていて、その人が家に帰ってどうするか考えていていない商品コンセプト”とか。つまりそのままでは、【お金が払えない】アイデアというわけです。伊藤さんは、相手を常に想定して、構想を練っていくと言います。

=== 
『クライアントが聞いてくるところを、先回りして補完する。つぶす。どうやったらそのアイデアに乗っかるという覚悟を勝ち取るか。確信をあげたい。KPIまで含めて提案しないと。おぼろげに何となくいいと思っているレベルでは買えない。アイデアが買われるように育てる。クライアントのツッコミに答えられない時点で、アイデアが死ぬ。
  
『自分のアイデアをつまらないと言われるとついムッとしがちだが、そこで怒ってしまうと、説得にかかってしまう。ダメ。アイデアの裏にある、試行錯誤の痕跡こそ大事だし、優秀な人には透けて見える。合気道のように、相手の指摘を吸収する。質問が多い時点で、そのアイデアには穴が多い。その質問にその場でそれっぽく答えても、そもそものアイデアがダメかも。』
===

実際に形にしていくということは、つまりだれかがリスクを取るということ。お金、時間、労力、社会的評判などなど、それらのリスクを自分以外のだれかを巻き込んで犯すのも、「企画」の持つ性格の一面。その上で、伊藤さんは徹底的に実現プランを詰めます。最初のプレゼンで相手のすべての疑問・不安に一発で応えられるように。企画者、プロデューサーにありがちな、「よさそげなコンセプトだけ出して後は放置」するのではなく、世の中に着地するところまで完全にプランニング・ディレクションを一人の頭の中で練りきる。「企画」というものの定義をここまで視野広く見るということのしんどさと大切さに吃驚な前半でした。




事例を通じて


後半は、実際の事例をピックアップしながら、特に実現の段階でどんな苦労があり、どんな心構えでそこを乗り切ったかを説明してもらいました。


ケーススタディ1. Love distance

2009年カンヌ国際広告祭で日本勢としては1年ぶりのフィルム部門ゴールド獲得他、多くの賞に輝いた当キャンペーン。企画者である伊藤さんから、企画プロセスを語っていただきました。


LOVE DISTANCE」は、東京と福岡で遠距離恋愛中の男女が1224日に日本のどこかで再会うことを約束して、その距離10億ミリ(1000キロ)を走り出します。
およそ一ヶ月弱、二人の走りは全てライブ映像で配信されます。
また、二人のメールやライブチャットのやりとりも同様に公開され、これに感情移入したユーザは、応援メッセージを送り届けることも可能。

本キャンペーンは、広告であることを事前に開示した上でスタートするものの、最後までクライアントは明かされません。
1224日、走り抜いた二人は無事出会い、はじめてクライアントである0.02mmの世界最薄コンドームメーカーのサガミオリジナルが紹介されます。
「それでも愛に距離を 0.02mm、というのが大まかなストーリーの流れです。



まず、コンドームは商品性のためにあまり人が表立って話題に出さないという難点が先方オリエン内容にあり、そこをいかに打破するかが今回のチャレンジだったわけです。その難題に対して、『クライアントを隠した方がバズになる』というソリューションを発想し、最後の一瞬の種明かしの盛り上がりにアテンションを集中させるという企画の大枠がオリエンからまもなく決まったそうです。

では、CMなしで、クライアント名を伏せて、どうやって注目を集めるか?そこで、綿密かつ大胆なPRの戦略提案をしたわけです。

     最後まで明かされないクライアント名
     坂本龍一への楽曲依頼による話題化
     LOVE DISTANCE製作委員会」を通じて発信される出演者募集の仕組み。
  新聞・雑誌に求人広告のようなテイストの告知を出し、話題化
     遠距離恋愛の日(12-21)にあわせた、「遠距離恋愛に関する意識調査」の調査リリース配信。
  mixiニュース、Yahooトップなど莫大な露出を稼ぐことに成功
・ サイトにアクセスしたユーザへの制約の設け方とこれによる感情移入の強化
・ 1ヶ月をかけて完成される「リアルタイム・インタラクティブ・ドキュメンタリー」CMと言う発想

などなど。これら全ての構造を、初回の提案時に完全に完成させていたといいます。どこに何をどのようなテイストで仕掛けると、誰がどういう感情を伴ってどのように動くのか。それを、完全に慮る、しつこさ。企画者たるもの、ここまで考えつくさないと新しい価値を世の中に生み出すことはできないと伊藤さんは言います。


さらに、実際にディレクションの段階に至っても“企画”は続きます。コンテンツの性質上、普通にディレクションすればCMプロダクションへの撮影費だけで破綻してしまうという“予算の壁”に対して、TV番組制作会社に発注する』というソリューションを思いつき、裏を取るところまで自分のディレクション下で確実にやったという伊藤さん。予算にはまる算段がついたところでプレしたそうです。

===
『純目で考えたらお金がはまらない中、なにか手を探す。そこも企画術。仕組みを作る。この企画は、『こういう企画考えたんで見積もりください』だけでは絶対に実現できなかった企画。安くできないか、自分でアイデアをだす、つっつく、考え尽くす。』

『アイデア発想まで2週間。1案だけ出した。奇襲戦法ほど、ディテールを詰めないと乗ってくんない。ただの無邪気なアイデアに見えて終わってしまう。徹底的に詰めきること。
===

『薄さ0.02mm』という商品特性を、薄さではなく“距離”と捉える着眼。“距離”から、男女の距離へ、そして遠距離恋愛へのジャンプ。そこから発想したクリエイティブコンセプト【男女の遠距離恋愛をテーマに、コンドームの薄さを表現する。】 さらに、そのコンセプトの面白さを確実に、忌避されずに、広くあまねく伝えるための徹底したPR戦略と、実施・実現する上での地道で見えない工夫・知恵。伊藤直樹が標榜する、「企画の価値」が見事に凝縮された事例でした。



ケーススタディ2.  Chalkbot Nike Livestrong Foundation

これも有名な企画ですね、内容は下の動画に譲って割愛します。伊藤さんによる企画ではないですが【実現までの障壁の多さと、そこに対して練られた工夫の精度・緻密さの高さ】から事例として取り上げました。




アイデアを発想するフェーズにおいては、『道に書く』というのがブレイクポイントだっただろうと伊藤さんは推測します。

===
『ガン励ましメッセージ募集!くらいなら誰でも浮かぶ。インパクトのある企画には、インパクトのある実施のビジュアルイメージがあるはず。そこを捕まえられるか。これだ!と思えるかどうか。』
===

“道にガン励ましメッセージが書きつなげられ、その上でツールドフランスを実施する”という画が浮かんだ時点である意味勝っていると伊藤さんは言います。しかし、伊藤さんがこの事例に対して素晴らしいと評価している点はそこから先のフィジビリティについて。

     何で道に書くのか?書きっぱなしというわけにはいかない
     ペンキで書いて、後で洗浄車で洗い流せばいいのでは?
     ペンキは環境汚染につながるので、できれば避けたい。
     チョークなら石灰なので環境汚染にはならない。なにより、勝手に落ちる。
     でも手で書いていったら日が暮れてしまう。機械で出来ないか?
     ではどこに発注してそんな機械を作ってもらえるのか?予算は?
     ペンキよりチョークがいいのってなんで?予算にはまるの?
    ・・・・

このようなやり取りを、ひたすらにひたすらにやったに違いないと伊す。て、“発想はシンプルだが、誰もこんなことが実現できると思わなかった”ような、強く新しい企画が実現できたということです。

=== 
『分かることと、まだ分かってないこと。分かってないことをどう潰していくか。法務、訴訟など、リスクヘッジまでも提案時までやり尽くす。なにを求められるか。なにを聞かれそうか。』

『たとえば富士登山と一緒でいろんなケースを想定して準備する。準備が足りなかったら、そこで死んでしまう。無邪気なアイデアは、手ぶらで富士山を上るようなもの。普通の人間だったらそこまで考えないというような域まで、いかに考えつくして到達できるかが、企画者としての質につながると思う。』

『企画書に乗ることだけがアイデアではない。そのアイデアを実現するためのアイデアも必要。それがないと結局実現できない。根掘り葉掘り検討しないと実現しない。それが”アイデアを実現する”ということ。実現できなかったアイデアはないのと一緒。
===

実現まで責任を持ち、そこにおいても高次のクリエイティビティを発揮してこそ、「一流の企画者」である。伊藤さんの企画に対する本気の熱を体感する講義でした。



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講義の最後に伊藤さんは、『あらゆるジャンルの”はじめて”は、当初は異端である。』といいました。みんなが出来ないということを、何とかして実現する道筋を立てること。そこには、それまで誰も思いつかなかったような“実現する上でのアイデア”が必要なんですね。

映画「ソーシャルネットワーク」で、フェイスブックの着想をザッカーバーグに不当に盗用されたと訴えるウィンクルボス兄弟というキャラクターが出てくるんですが、彼らの、「フェイスブックは我々のアイデアだ」という訴えに対し、ザッカーバーグはこう応えます。


「じゃあ、作ってみなよ」


出来上がったものに対し、「俺もおんなじことは考えてた」とか、「先に俺のほうが思いついてた」というのは簡単です。でも、たとえそれが事実だとしても、最後は形に出来た人に価値がある。第一回の授業の内容にあるような、しつこいほどの発想プロセスを経て出てきたシンプルで強いメッセージを帯びたアイデアを、地道で緻密でしつこい実現プロセスを経て世の中に出す。個人的にとても好きな、「ジェファーソン記念碑の逸話」をふと思い出しました(別の機会にご紹介します)。


「人と同じことは絶対にやらない」という強い信念と、課題解決のための最善手を探りつくす忍耐。企画者は孤独だなあと思いつつも、安易に人や他の企画に寄りかからず、孤独に考えつくす地力の必要性を学べたことが、一番の収穫でした。


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次回の授業からは伊藤直樹氏が選りすぐった「一流の企画人」である講師陣がオムニバスで登壇し、課題を出してくる流れになります。第3回は建築家の中村拓志氏。伊藤さんは、「皆それぞれに全く違う企画術を持っているので、違いから学びを得て欲しい」とのことでしたが、一流の企画人には、ドメインを超えた共通点があるということが、さっそく垣間見えた授業だったわけです。また、近々更新します。



2011/05/25

東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.01 伊藤直樹氏 (2010/10/04)

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前回までのログ


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前回投稿から、「東京企画構想学舎」での授業のログを公開し始めています(詳しくは上記リンク参照)。初回の授業(2010/10/04)は学科長の伊藤直樹氏から、学科に込める思いや、「アイデアとは何か」「企画とは何か」「どう考えればいいのか」 など、伊藤流「企画の思考術」について第2回と合わせて講義していただきました。



学科長:伊藤直樹

元Wieden+Kennedy TOKYO/エグゼクティブ・クリエイティブディレクター
テレビからウェブまでをフラットに用いた、メディアにとらわれない広告キャンペーンや
ブランディングを得意とするクリエイティブディレクター。テレビCFの企画、コピーライティング、
アートディレクション、戦略PRなどを手がけるほか、商品開発、事業提案、社会活動などにも取り組んでいる。
おもな仕事には、ナイキ/Nike ID 「Nike Cosplay」、マイクロソフト/XboxBIG SHADOW」、
ソニー/ウォークマン「REC YOU」などがある。カンヌ国際広告祭(フィルム部門、サイバー部門、
アウトドア部門、PR部門などで金賞5回)、アドフェスト(3年連続グランプリ)、
東京インタラクティブ・アド・アワード(グランプリ、ベストクリエイター)をはじめ
国内外での受賞多数。

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企画の重要性を発信していく


伊藤さんがまずこの学科の最終目標として掲げた内容が、「“企画の重要性、本当の価値”を世の中に発信していく」ということ。“企画”とはそれ自体が有形ではないが故に、まだまだ世の中で価値が認められていないと同時に、“優れた企画を世に輩出する人”に対しても正当に価値が認められていないという強い問題意識が伊藤さんの中にあります。それは人々の意識の中の問題だけでなく、法律や規範などの法的権利の上においても同様で、「自覚的・無自覚的両方のパクリ・真似」「検索・情報飽和による発想することへのリスペクト低下」などの背景もあいまって、【企画の価値の軽視】を招いていると。この学科では「企画の価値・重要性を理解した上で、自ら企画する力を身につけた人材」を育成・輩出することで、世の中に少しでも企画の価値を発信していくことを大目標として掲げて、授業がスタートしました。




では、企画とは何か??


そもそも企画とは何か?伊藤さんの定義はシンプルです。

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企画アイデア×実現構想

アイデア : ①思いつき・着想・計画 ②観念・理念
実現構想 : その内容・規模・実現方法などを体系的に考えて骨組みをまとめること。

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「考えや思いつき、発想、物事の視点視座」「それを思いつきに終わらせずに、確かに世の中に具現させる構想力・策」の両方がなくては、企画ではないという考え方で、言い換えれば、【企画=アイデア×アイデアを実現するためのアイデア】ともいえるかも知れません。

加えて、本当に世の中を動かす企画人は、アイデアの【②観念・理念】をしっかり持っているとも伊藤さんは言います。観念・理念とはつまり、「世の中、こうあってほしい」という社会意識や、「そもそも自分はこういうことがしたい」という大局的な自己願望のことで、これがある人間とない人間では、「他者を巻き込んで一人では出来ない大きなムーブメントを作る力」が圧倒的に違うとのことです。目の前の課題に対してどうするかという短期的・寄りの視座と、そもそも自分や社会・地球は今よりどうあるべきなのかというような長期的・引きの視座を両方持てているかどうか。特に後者の意識は忘れがちですが、いつでも常に問題意識を持っている人からこそ、誰も思いつかなかったアイデアは生まれるとのお話でした。

話を少し戻して、企画アイデア×実現構想の話。アイデアだけでは、無邪気で無責任なだけで一向に世の中は動かない。実現構想だけでは、既に世の中にあるような、見たことのある・あるいは誰でも思いついてしまう企画しか生まれない。その両方を個人の中に内在させてバランスすることは超ハイレベルな能力を要する。ではどうすりゃいいのか??伊藤流の企画術をその2フェーズに分けて、まずが「アイデアを考える」ことからレクチャーが始まりました。




伊藤流【アイデア11訓】


「あくまでも僕のやり方だし、僕が連れてきたほかの4人の先生はまた全然違うやり方があると思います。大事なのは、自分の発想のクセを知ること。そしてそれを伸ばしたり補ったりしながら、自分のスタイルを磨いていくこと。その上で、優れた企画を世の中に輩出している人のやり方を参考にしてほしい。」

その前置きの後、伊藤さんは11個のアイデア発想プロセスを呈示してきたわけです。

1.アイデアを出す
2.アイデアを残す
3.アイデアを裁く・検証する
4.アイデアを寝かす
5.アイデアを計る
6.アイデアを構想する
7.アイデアを削る
8.アイデアを話す
9.アイデアを隠す
10.アイデアを試す
11.アイデアを忘れる

それぞれどういうことかというと・・・


1.アイデアを出す
これは文字通り、何でもいいからまず考え出してみるということ。アイデアを出すのは、自分の身体と頭でしかないと伊藤さんは言います。どんなに優秀な人とブレストしようが、いい参考文献を読もうが、最初の一滴が出てくるのは、自分の中からだけそこに腹をくくって、出すこと。もちろんまだ無責任で無邪気でいいフェーズなので、実現可能性は無視して、なるべくジャンプするようなものを狙います。
加えてアイデアを出す上で大事なのは環境とも伊藤さんは言ってます。場所・アイテム・時間帯・前後の行動など・・・自分の発想のクセを理解できていれば、自分が最もアイデアを出しやすいスタイルも理解できているはずだと。それが分かっている人はつまり、「自分の身体や頭の、自分だけの使い方が分かっている」ことと”≒”であり、他人には絶対思いつかないアイデアの発想に一歩近づけることになるんだということです。


2.アイデアを残す
「生まれたてのアイデアはすぐに死ぬ」 つまり、そのものまるごと忘れちゃったり、そのアイデアが思いついた瞬間のみずみずしい喜びが思い出せなくなったりする。だから、思いついた瞬間にメモを取ること。メモのスタイルについては1.で述べた自分流のスタイルを見つければ何でもいいだろうと。伊藤さんはiPhoneEvernoteにその場でメモを取ってました。


3.アイデアを裁く・検証する
1.2.で手元に集まったアイデアたち。大半は、「全く価値のないごみのようなアイデア」だろうと伊藤さんは言います。そして、それでいいと。大事なのは、その後しっかり「審美眼を持って裁けるか」 ダメなアイデアを見極めて、捨てる。自分が出したアイデアを溺愛しない。1.2.ではとことん直感を大事にする一方で、ここで“合理的解釈”のフィルターをかけるわけです。明らかにダメなものを深追いしない。芽があるものを素早く見極め、そのアイデアに時間と労力をかけていく。難しいけど重要なフェーズ。


4.アイデアを寝かす
裁いた結果、生き残ったアイデアは、すぐに実現目指して詰めていくのではなく、一度冷静に、客観的に良し悪しを判断できる状態に自分の脳を自覚的に持っていく。そのためには、時間を空けるフェーズを経たほうがいいとのことです。


5.アイデアを計る
フィジビリティともいえるかもしれないこのフェーズ。「面白そうだけど、それ本当に実現できるの?」というところを計ります。予算、時間、法律、場所などなど・・・ 制約をしっかり理解した上で、リアリティがあるアイデアなのかどうかを検証するわけです。ただこのフェーズは経験値がモノをいう部分でもあるとも。いろいろな企画の経験を通じて勘も含めて養っていきたいところです。


6.アイデアを構想する
ここまで来てはじめて、細かいディテールを実際どうするのか、ひとつひとつ組み立てて行きます。立体的に、多面的に、別々の要素をつなげてひとつの企画の形にしていくことで、企画の【良さ】と【弱点】が改めて見えてくるわけです。アイデアをコンセプトで終わらせずに、実現へ着実に近づける大事なフェーズ。
加えて伊藤さんは、『思いつきは、そのまま人に話しても絶対によさが伝わらない』と、「アイデアを人とシェアする危険性」についてもこのフェーズで語っていました。これは僕も何度も経験してきたことなんですが、自分としては凄くいいと思うアイデアを人に話したところどうもピンとこない、伝わらない。それどころか、それ以降、「似たような方向性そのもの全体」に対してイケてない・上手くいかなさそうな印象を抱かれてしまい、塞がれてしまう。「あーもっと詰めてから話せば良かったのかなあ・・・」というアレです。伊藤さんは、「何か凄くいい感じな気がする・・・」というアイデアが生まれたら、安易に人に話さないで、「ある程度のレベルに達しているものだけを人に持っていく」ことを徹底しているそうです。本当にいいアイデアの芽なのに、煮詰まっていないがために芽もろとも潰されるのは絶対に避けないといけない。アイデアは大事に大事に育てようと。そのためには安易に人に話して助けを求めるのではなく、自分で悩みつくさないといけないですね。近い理由で嫌っているやり方として、「とりあえず各自20案持ってくる」というような数縛りや、「ボツ案・自分ではイケてないと思う案もとりあえずシェアしよう」というようなボツ案別添があるとのこと。
いずれにしても、自分の頭と身体でしっかりと構想する覚悟、これが大事ということですね。


7.アイデアを削る
1つのアイデアを構想していくと、果てしなく枝葉が広がっていくと思うし、それはそれで素晴らしいこと。一方で、このフェーズでその広がった枝葉を整理して、優先順位の低いものを落としてシンプルにしていくわけです。3.アイデアを裁くと近いかも知れませんが、こちらは、「あるひとつのアイデアのディテールの精査」というニュアンス。ただし、枝葉を整理して組み立てていくうえで、「枝葉の整理ではどうしても良くならない根本的な問題がある」と幹であるアイデアそのものに感じた場合は、潔く木ごと捨てないといけないのもこのフェーズ。自分が出して深めてきたアイデアには誰だって愛着が湧いてしまって当然。そんな中で潔く捨てて、1.に戻れるか。覚悟もさることながら、ここも経験がものをいうフェーズとのことでした。削る嗅覚をちょっとずつ養っていきたいですわ。


8.アイデアを話す
ここまできてやっと、人に話します(こう考えると、ミーティングまでに相当な追い込みを要するスタイルだということが分かります)。思いつきではなく、ある程度全体像が実現可能性もはらんだ上で見えてから、というのが指標。ポイントは誰に話すかなのですが、伊藤さんは、「複数の、毎回同じ人に話す」ことを推奨します。人は誰だって、ある程度無責任に人のアイデアに対して意見してきて当然で、それの集合体が世の中なわけです。だったら、その「無責任具合」を理解した上で、そのゆらぎを自分の中で解釈できたほうがいいだろうと。同じ人に聞くことによってその人の好みや考え方の傾向がわかってきて、「Aさんが喜んでくれたら、今回のメインターゲットには刺さるな」「Bさんに気に入られないようだったらブランド価値は向上できない」のように、“ある人々の代表”として捉えられるようになる。異なるゆらぎを持つご意見番を何人か持つことは重要だということです。
その上で、「話した相手のリアクションをどう解釈するか」がまた難しいポイントなわけですが、一番大事なポイントは、「見せた瞬間の顔を捉えること」という伊藤さん。言葉よりも、会話よりも、最初の一瞬を逃さず捉え続けていると、自分の中で、どんなアイデアがどんな人にどんな顔をされて受け入れられるか想像できるようになっていくそうです。「アイデアリテラシー」という感覚でしょうか。経験を積んでいくことで自分の中にリテラシーを持てれば、世の中に出してしまう前にかなり実感を持って、「このアイデアでいけるか否か」が分かるようになっていくそうです。
また、人に説明しにくい企画は、そもそもの企画があまり強くないと考えて間違いないと、他の多くのクリエーターと同様に伊藤さんも言います(ただしそれは、短いメッセージという宿命を負った広告に限るのかもしれないとも注釈していましたが)。その上で重要なのは、「アイデアのあらすじ」を文章で書く作業だそうです。シノプシスという単語で説明していましたが、簡潔にあらすじが書けるかどうかが、とても重要。ここであらすじが書けないようなら、7.以前のフェーズに戻ります。


9.アイデアを隠す
人に伝えるうえで、優先順位をつけて、伝えなくてもいいことを秘めるフェーズ。考えたことや自分の理念・思想を全てぶちまけるのは、結果的に企画の価値を下げてしまうし、決定権者ほど忙しく核心を早く知りたがります。特に理念・思想はそれのみを殊更話されても、他人からしてみれば他人事だったりもします。「あらすじ」を最小単位として、そこに加えてどこまで話して、どこを隠すか。直接書き出さなくても、相手が自然と理念・思想についてまで共感するよう誘導するには、何を表現したらいいか。ここも経験値が必要かも知れないですね。


10.アイデアを試す
8.の話すよりもさらに公の発表である、「プレゼンテーション」がこのフェーズ。ここでも重要なことは8.と同じく、「相手のリアクションを絶対に見逃さないこと」に尽きると伊藤さん。理想的なアイデアは、「どの人に見せてもネガティブな顔をされないアイデア」であるといい、全員の評価をニュートラル以上に持っていけているかどうかを表情から伺えれば、“性年代や趣味趣向を超えた、人間の普遍的に気持ちいいところに持っていける”リテラシーが持てていると言えるそうです。
この「全会一致主義」も伊藤さん特有のポリシーだと思うのですが、全ては「人間の普遍的な気持ちよさ」を尊重している故なのです。「キーマンさえ落とせばOK」「曲者・変人・下っ端は無視」というスタイルを真っ向否定して、最も難しいハードルを自らに課す伊藤さん。それはひとえに、「その場をやりおおせる」という短期の目線ではなく、「世の中の誰もが、嫌な気持ちにならずに、人間として普遍的な気持ちよさを享受できる企画」にこだわっているからなんでしょう。立場や利害を異なる人同士でも共有できる価値観に根ざした企画こそ、結果あるひとりにとっても強いメッセージを帯びたものになる。しんどいこと間違いないですが、そこを目指してほしいという伊藤さんの心意気が一番見えたフェーズです。これは後々、グループワークをするときに徹底された、「普遍的なアイデアの強さ」に繋がっていく話なのですが、詳細はまたの機会に。


11.アイデアを忘れる
最後のフェーズが「忘れる」こと。日々の案件において莫大な数のアイデアを出していきながらも、実現するのはまさに1000に3つくらいだと思う。その他のダメだったアイデア、惜しかったアイデアに固執しないで大胆に忘れることも、新たなアイデアを生み出すコツとのこと。ただし、振り返りもしないで捨てるのではなく、再利用できるかどうかチェックすることが重要。ボツ案のエッセンスを本命に混ぜて大ジャンプするなんてよくある話なわけで、潔さとリサイクル精神のバランスは持っておきたいですね。

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以上、伊藤流アイデア11訓でした。キレイに時系列で進んでいくということではなく、行ったりきたり、何周も何十周もしながら、実現に向けて匍匐前進していくイメージなんでしょう。重要なのは、「慣れないうちはこれらのフェーズを混ぜて同時にやらない」こと。考えることを分解して、自分のクセを理解した上で、足りない部分に意識的に取り組む。そのためには有意義な整理だと思いました。
個人的に思うに、重要なのは「いかに自分の脳の乗り方を知っているか」なんだと思います。これは編集者の後藤繁雄氏の言葉ですが、自分の思考のクセを理解して、乗りこなせていれば、世の中と自分の距離を理解して、その上で本当に世の中に受け入れられ、世の中を動かす企画を作れるんではないでしょかね。
伊藤さんはおそらく本質的には、ものすごい直感・体感型の企画者だと思うのです。ただそれをそれだけでとどめずに、客観性や世の中との距離感をしっかりとモノサシとして内在させている。そこが、「思いつき」と「企画」の大きな違いを実践できている一番の要因なんじゃないでしょうか。
加えて伊藤さんのスタイルとして、ある課題が振ってきてからソリューションを考えるという【課題ファーストスタイル】だけでなく、常に何か面白いアイデアをストックしておいて課題が来たらストックの中から編集して利用するという【アイデアファーストスタイル】の両方を持てていることがいえると思います。【アイデアファーストスタイル】ならば、勝手に熟成がかかるというわけだし、つまりそれは、「目の前の課題とは直接関係のない、自らの理念や信念に基づくアイデア」だといえるんじゃないでしょうか。信念や思いがあれば、クライアントやオファーがあろうが無かろうが、アイデアは勝手に考えちゃうでしょ?という。そこがあるかないかは、本当に世の中を動かす企画を生み出すマグマがあるかどうかってことなんだろうなあと本当に思います。

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「それぞれ、自分がどのフェーズが得意でどのフェーズが弱いと感じるか、理由も含めて考えてきてください」という宿題を持って、第1回目講義は終了。第2回はいよいよ、「企画を実現すること」について、引き続き伊藤さんの講義です。事例も踏まえての講義を通じて、「企画とは何か」を体感する内容でしたとさ。外山滋比古の『思考の整理学』を再読しつつ、次回へ挑みました。


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