2011/05/25

東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.01 伊藤直樹氏 (2010/10/04)

Check    Clip to Evernote



前回までのログ


~~

前回投稿から、「東京企画構想学舎」での授業のログを公開し始めています(詳しくは上記リンク参照)。初回の授業(2010/10/04)は学科長の伊藤直樹氏から、学科に込める思いや、「アイデアとは何か」「企画とは何か」「どう考えればいいのか」 など、伊藤流「企画の思考術」について第2回と合わせて講義していただきました。



学科長:伊藤直樹

元Wieden+Kennedy TOKYO/エグゼクティブ・クリエイティブディレクター
テレビからウェブまでをフラットに用いた、メディアにとらわれない広告キャンペーンや
ブランディングを得意とするクリエイティブディレクター。テレビCFの企画、コピーライティング、
アートディレクション、戦略PRなどを手がけるほか、商品開発、事業提案、社会活動などにも取り組んでいる。
おもな仕事には、ナイキ/Nike ID 「Nike Cosplay」、マイクロソフト/XboxBIG SHADOW」、
ソニー/ウォークマン「REC YOU」などがある。カンヌ国際広告祭(フィルム部門、サイバー部門、
アウトドア部門、PR部門などで金賞5回)、アドフェスト(3年連続グランプリ)、
東京インタラクティブ・アド・アワード(グランプリ、ベストクリエイター)をはじめ
国内外での受賞多数。

**********


企画の重要性を発信していく


伊藤さんがまずこの学科の最終目標として掲げた内容が、「“企画の重要性、本当の価値”を世の中に発信していく」ということ。“企画”とはそれ自体が有形ではないが故に、まだまだ世の中で価値が認められていないと同時に、“優れた企画を世に輩出する人”に対しても正当に価値が認められていないという強い問題意識が伊藤さんの中にあります。それは人々の意識の中の問題だけでなく、法律や規範などの法的権利の上においても同様で、「自覚的・無自覚的両方のパクリ・真似」「検索・情報飽和による発想することへのリスペクト低下」などの背景もあいまって、【企画の価値の軽視】を招いていると。この学科では「企画の価値・重要性を理解した上で、自ら企画する力を身につけた人材」を育成・輩出することで、世の中に少しでも企画の価値を発信していくことを大目標として掲げて、授業がスタートしました。




では、企画とは何か??


そもそも企画とは何か?伊藤さんの定義はシンプルです。

~~~~~~

企画アイデア×実現構想

アイデア : ①思いつき・着想・計画 ②観念・理念
実現構想 : その内容・規模・実現方法などを体系的に考えて骨組みをまとめること。

 ~~~~~~

「考えや思いつき、発想、物事の視点視座」「それを思いつきに終わらせずに、確かに世の中に具現させる構想力・策」の両方がなくては、企画ではないという考え方で、言い換えれば、【企画=アイデア×アイデアを実現するためのアイデア】ともいえるかも知れません。

加えて、本当に世の中を動かす企画人は、アイデアの【②観念・理念】をしっかり持っているとも伊藤さんは言います。観念・理念とはつまり、「世の中、こうあってほしい」という社会意識や、「そもそも自分はこういうことがしたい」という大局的な自己願望のことで、これがある人間とない人間では、「他者を巻き込んで一人では出来ない大きなムーブメントを作る力」が圧倒的に違うとのことです。目の前の課題に対してどうするかという短期的・寄りの視座と、そもそも自分や社会・地球は今よりどうあるべきなのかというような長期的・引きの視座を両方持てているかどうか。特に後者の意識は忘れがちですが、いつでも常に問題意識を持っている人からこそ、誰も思いつかなかったアイデアは生まれるとのお話でした。

話を少し戻して、企画アイデア×実現構想の話。アイデアだけでは、無邪気で無責任なだけで一向に世の中は動かない。実現構想だけでは、既に世の中にあるような、見たことのある・あるいは誰でも思いついてしまう企画しか生まれない。その両方を個人の中に内在させてバランスすることは超ハイレベルな能力を要する。ではどうすりゃいいのか??伊藤流の企画術をその2フェーズに分けて、まずが「アイデアを考える」ことからレクチャーが始まりました。




伊藤流【アイデア11訓】


「あくまでも僕のやり方だし、僕が連れてきたほかの4人の先生はまた全然違うやり方があると思います。大事なのは、自分の発想のクセを知ること。そしてそれを伸ばしたり補ったりしながら、自分のスタイルを磨いていくこと。その上で、優れた企画を世の中に輩出している人のやり方を参考にしてほしい。」

その前置きの後、伊藤さんは11個のアイデア発想プロセスを呈示してきたわけです。

1.アイデアを出す
2.アイデアを残す
3.アイデアを裁く・検証する
4.アイデアを寝かす
5.アイデアを計る
6.アイデアを構想する
7.アイデアを削る
8.アイデアを話す
9.アイデアを隠す
10.アイデアを試す
11.アイデアを忘れる

それぞれどういうことかというと・・・


1.アイデアを出す
これは文字通り、何でもいいからまず考え出してみるということ。アイデアを出すのは、自分の身体と頭でしかないと伊藤さんは言います。どんなに優秀な人とブレストしようが、いい参考文献を読もうが、最初の一滴が出てくるのは、自分の中からだけそこに腹をくくって、出すこと。もちろんまだ無責任で無邪気でいいフェーズなので、実現可能性は無視して、なるべくジャンプするようなものを狙います。
加えてアイデアを出す上で大事なのは環境とも伊藤さんは言ってます。場所・アイテム・時間帯・前後の行動など・・・自分の発想のクセを理解できていれば、自分が最もアイデアを出しやすいスタイルも理解できているはずだと。それが分かっている人はつまり、「自分の身体や頭の、自分だけの使い方が分かっている」ことと”≒”であり、他人には絶対思いつかないアイデアの発想に一歩近づけることになるんだということです。


2.アイデアを残す
「生まれたてのアイデアはすぐに死ぬ」 つまり、そのものまるごと忘れちゃったり、そのアイデアが思いついた瞬間のみずみずしい喜びが思い出せなくなったりする。だから、思いついた瞬間にメモを取ること。メモのスタイルについては1.で述べた自分流のスタイルを見つければ何でもいいだろうと。伊藤さんはiPhoneEvernoteにその場でメモを取ってました。


3.アイデアを裁く・検証する
1.2.で手元に集まったアイデアたち。大半は、「全く価値のないごみのようなアイデア」だろうと伊藤さんは言います。そして、それでいいと。大事なのは、その後しっかり「審美眼を持って裁けるか」 ダメなアイデアを見極めて、捨てる。自分が出したアイデアを溺愛しない。1.2.ではとことん直感を大事にする一方で、ここで“合理的解釈”のフィルターをかけるわけです。明らかにダメなものを深追いしない。芽があるものを素早く見極め、そのアイデアに時間と労力をかけていく。難しいけど重要なフェーズ。


4.アイデアを寝かす
裁いた結果、生き残ったアイデアは、すぐに実現目指して詰めていくのではなく、一度冷静に、客観的に良し悪しを判断できる状態に自分の脳を自覚的に持っていく。そのためには、時間を空けるフェーズを経たほうがいいとのことです。


5.アイデアを計る
フィジビリティともいえるかもしれないこのフェーズ。「面白そうだけど、それ本当に実現できるの?」というところを計ります。予算、時間、法律、場所などなど・・・ 制約をしっかり理解した上で、リアリティがあるアイデアなのかどうかを検証するわけです。ただこのフェーズは経験値がモノをいう部分でもあるとも。いろいろな企画の経験を通じて勘も含めて養っていきたいところです。


6.アイデアを構想する
ここまで来てはじめて、細かいディテールを実際どうするのか、ひとつひとつ組み立てて行きます。立体的に、多面的に、別々の要素をつなげてひとつの企画の形にしていくことで、企画の【良さ】と【弱点】が改めて見えてくるわけです。アイデアをコンセプトで終わらせずに、実現へ着実に近づける大事なフェーズ。
加えて伊藤さんは、『思いつきは、そのまま人に話しても絶対によさが伝わらない』と、「アイデアを人とシェアする危険性」についてもこのフェーズで語っていました。これは僕も何度も経験してきたことなんですが、自分としては凄くいいと思うアイデアを人に話したところどうもピンとこない、伝わらない。それどころか、それ以降、「似たような方向性そのもの全体」に対してイケてない・上手くいかなさそうな印象を抱かれてしまい、塞がれてしまう。「あーもっと詰めてから話せば良かったのかなあ・・・」というアレです。伊藤さんは、「何か凄くいい感じな気がする・・・」というアイデアが生まれたら、安易に人に話さないで、「ある程度のレベルに達しているものだけを人に持っていく」ことを徹底しているそうです。本当にいいアイデアの芽なのに、煮詰まっていないがために芽もろとも潰されるのは絶対に避けないといけない。アイデアは大事に大事に育てようと。そのためには安易に人に話して助けを求めるのではなく、自分で悩みつくさないといけないですね。近い理由で嫌っているやり方として、「とりあえず各自20案持ってくる」というような数縛りや、「ボツ案・自分ではイケてないと思う案もとりあえずシェアしよう」というようなボツ案別添があるとのこと。
いずれにしても、自分の頭と身体でしっかりと構想する覚悟、これが大事ということですね。


7.アイデアを削る
1つのアイデアを構想していくと、果てしなく枝葉が広がっていくと思うし、それはそれで素晴らしいこと。一方で、このフェーズでその広がった枝葉を整理して、優先順位の低いものを落としてシンプルにしていくわけです。3.アイデアを裁くと近いかも知れませんが、こちらは、「あるひとつのアイデアのディテールの精査」というニュアンス。ただし、枝葉を整理して組み立てていくうえで、「枝葉の整理ではどうしても良くならない根本的な問題がある」と幹であるアイデアそのものに感じた場合は、潔く木ごと捨てないといけないのもこのフェーズ。自分が出して深めてきたアイデアには誰だって愛着が湧いてしまって当然。そんな中で潔く捨てて、1.に戻れるか。覚悟もさることながら、ここも経験がものをいうフェーズとのことでした。削る嗅覚をちょっとずつ養っていきたいですわ。


8.アイデアを話す
ここまできてやっと、人に話します(こう考えると、ミーティングまでに相当な追い込みを要するスタイルだということが分かります)。思いつきではなく、ある程度全体像が実現可能性もはらんだ上で見えてから、というのが指標。ポイントは誰に話すかなのですが、伊藤さんは、「複数の、毎回同じ人に話す」ことを推奨します。人は誰だって、ある程度無責任に人のアイデアに対して意見してきて当然で、それの集合体が世の中なわけです。だったら、その「無責任具合」を理解した上で、そのゆらぎを自分の中で解釈できたほうがいいだろうと。同じ人に聞くことによってその人の好みや考え方の傾向がわかってきて、「Aさんが喜んでくれたら、今回のメインターゲットには刺さるな」「Bさんに気に入られないようだったらブランド価値は向上できない」のように、“ある人々の代表”として捉えられるようになる。異なるゆらぎを持つご意見番を何人か持つことは重要だということです。
その上で、「話した相手のリアクションをどう解釈するか」がまた難しいポイントなわけですが、一番大事なポイントは、「見せた瞬間の顔を捉えること」という伊藤さん。言葉よりも、会話よりも、最初の一瞬を逃さず捉え続けていると、自分の中で、どんなアイデアがどんな人にどんな顔をされて受け入れられるか想像できるようになっていくそうです。「アイデアリテラシー」という感覚でしょうか。経験を積んでいくことで自分の中にリテラシーを持てれば、世の中に出してしまう前にかなり実感を持って、「このアイデアでいけるか否か」が分かるようになっていくそうです。
また、人に説明しにくい企画は、そもそもの企画があまり強くないと考えて間違いないと、他の多くのクリエーターと同様に伊藤さんも言います(ただしそれは、短いメッセージという宿命を負った広告に限るのかもしれないとも注釈していましたが)。その上で重要なのは、「アイデアのあらすじ」を文章で書く作業だそうです。シノプシスという単語で説明していましたが、簡潔にあらすじが書けるかどうかが、とても重要。ここであらすじが書けないようなら、7.以前のフェーズに戻ります。


9.アイデアを隠す
人に伝えるうえで、優先順位をつけて、伝えなくてもいいことを秘めるフェーズ。考えたことや自分の理念・思想を全てぶちまけるのは、結果的に企画の価値を下げてしまうし、決定権者ほど忙しく核心を早く知りたがります。特に理念・思想はそれのみを殊更話されても、他人からしてみれば他人事だったりもします。「あらすじ」を最小単位として、そこに加えてどこまで話して、どこを隠すか。直接書き出さなくても、相手が自然と理念・思想についてまで共感するよう誘導するには、何を表現したらいいか。ここも経験値が必要かも知れないですね。


10.アイデアを試す
8.の話すよりもさらに公の発表である、「プレゼンテーション」がこのフェーズ。ここでも重要なことは8.と同じく、「相手のリアクションを絶対に見逃さないこと」に尽きると伊藤さん。理想的なアイデアは、「どの人に見せてもネガティブな顔をされないアイデア」であるといい、全員の評価をニュートラル以上に持っていけているかどうかを表情から伺えれば、“性年代や趣味趣向を超えた、人間の普遍的に気持ちいいところに持っていける”リテラシーが持てていると言えるそうです。
この「全会一致主義」も伊藤さん特有のポリシーだと思うのですが、全ては「人間の普遍的な気持ちよさ」を尊重している故なのです。「キーマンさえ落とせばOK」「曲者・変人・下っ端は無視」というスタイルを真っ向否定して、最も難しいハードルを自らに課す伊藤さん。それはひとえに、「その場をやりおおせる」という短期の目線ではなく、「世の中の誰もが、嫌な気持ちにならずに、人間として普遍的な気持ちよさを享受できる企画」にこだわっているからなんでしょう。立場や利害を異なる人同士でも共有できる価値観に根ざした企画こそ、結果あるひとりにとっても強いメッセージを帯びたものになる。しんどいこと間違いないですが、そこを目指してほしいという伊藤さんの心意気が一番見えたフェーズです。これは後々、グループワークをするときに徹底された、「普遍的なアイデアの強さ」に繋がっていく話なのですが、詳細はまたの機会に。


11.アイデアを忘れる
最後のフェーズが「忘れる」こと。日々の案件において莫大な数のアイデアを出していきながらも、実現するのはまさに1000に3つくらいだと思う。その他のダメだったアイデア、惜しかったアイデアに固執しないで大胆に忘れることも、新たなアイデアを生み出すコツとのこと。ただし、振り返りもしないで捨てるのではなく、再利用できるかどうかチェックすることが重要。ボツ案のエッセンスを本命に混ぜて大ジャンプするなんてよくある話なわけで、潔さとリサイクル精神のバランスは持っておきたいですね。

~~~~ 

以上、伊藤流アイデア11訓でした。キレイに時系列で進んでいくということではなく、行ったりきたり、何周も何十周もしながら、実現に向けて匍匐前進していくイメージなんでしょう。重要なのは、「慣れないうちはこれらのフェーズを混ぜて同時にやらない」こと。考えることを分解して、自分のクセを理解した上で、足りない部分に意識的に取り組む。そのためには有意義な整理だと思いました。
個人的に思うに、重要なのは「いかに自分の脳の乗り方を知っているか」なんだと思います。これは編集者の後藤繁雄氏の言葉ですが、自分の思考のクセを理解して、乗りこなせていれば、世の中と自分の距離を理解して、その上で本当に世の中に受け入れられ、世の中を動かす企画を作れるんではないでしょかね。
伊藤さんはおそらく本質的には、ものすごい直感・体感型の企画者だと思うのです。ただそれをそれだけでとどめずに、客観性や世の中との距離感をしっかりとモノサシとして内在させている。そこが、「思いつき」と「企画」の大きな違いを実践できている一番の要因なんじゃないでしょうか。
加えて伊藤さんのスタイルとして、ある課題が振ってきてからソリューションを考えるという【課題ファーストスタイル】だけでなく、常に何か面白いアイデアをストックしておいて課題が来たらストックの中から編集して利用するという【アイデアファーストスタイル】の両方を持てていることがいえると思います。【アイデアファーストスタイル】ならば、勝手に熟成がかかるというわけだし、つまりそれは、「目の前の課題とは直接関係のない、自らの理念や信念に基づくアイデア」だといえるんじゃないでしょうか。信念や思いがあれば、クライアントやオファーがあろうが無かろうが、アイデアは勝手に考えちゃうでしょ?という。そこがあるかないかは、本当に世の中を動かす企画を生み出すマグマがあるかどうかってことなんだろうなあと本当に思います。

******


「それぞれ、自分がどのフェーズが得意でどのフェーズが弱いと感じるか、理由も含めて考えてきてください」という宿題を持って、第1回目講義は終了。第2回はいよいよ、「企画を実現すること」について、引き続き伊藤さんの講義です。事例も踏まえての講義を通じて、「企画とは何か」を体感する内容でしたとさ。外山滋比古の『思考の整理学』を再読しつつ、次回へ挑みました。


0 件のコメント:

コメントを投稿

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...
Mobile Edition
By Blogger Touch