今月の下旬に始まります、「Cannes Lions 2011」 今年はついにタイトルから【ad】の文字が消え、クリエイティビティによるソリューションすべての祭典となりそうな予感。というわけで、今年は(も)現地に行くことはできないので、事前の勉強会に顔を出して、社会が求めるクリエイティビティを覗き見してきました。
Future Communica vol.3 Cannes Lions 2011 pre Meeting
―これだけは覚えとかなくちゃ!―
主催:銀河ライター (facebookページはこちら)
【登壇者】
■ゲストスピーカー (五十音順)
石井 うさぎ 氏 (博報堂/クリエイティブディレクター)
石井 義樹 氏 (キラメキ/CMプロデューサー)
嶋 浩一郎 氏 (博報堂ケトル/クリエイティブディレクター ※本年度PR部門審査員)
■司会
河尻 亨一 氏(銀河ライター)
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”越境”するクリエイティブ
嶋浩一郎氏(以下:嶋)
今年は審査員で参加。これまでずっとPR審査員はadに対してある種”ルサンチマン”を抱いて審査してきた笑 adの冠が取れ、ますます垣根や審査基準があいまいになっていく中、PRのあり方をどう世の中に提示していくのかに注目したい。
石井うさぎ氏(以下:う)
心をつかんで実際に人の行動を変えたり動かすアイデアなら何でもOK!という流れは今年ますます強くなるはず。エントリー部門増やしてお金もうけたいという運営側の事情もあるだろうけど笑
石井義樹氏(以下:義)
フィルムに関してはレベル下がってますよ年々。クラフトとしてのクオリティに加えてどう仕組みの中に映像を織り込んでいくかまで考えなくてならなくなってきていて、それができる人がまだまだ少ない印象。でもお金かけて有名監督がとった作品の強さはやっぱりあると思う。
Heineken [The Entrance]
Heinekenを飲みたくなるシーンをひたすらに派手に描いた作品。
Webサイトには別バージョンが数パターンあげられている。
監督はフレデリック・ポンド。
理屈ぬきに見たくなる映像の威力を表現できている。
う:
CMそれ自体、TVというデバイスからすっかり自由になっている。好きなCMはiPhoneからYouTubeでみるなんて、もう当たり前のこと。そんな中で、Honda[Jazz]のCMは「TVから見る」ということにオリジナリティをしっかり作れている、”TVの逆襲”ともいえる作品で注目している。製作はWieden + Kennedy London
Honda Jazz [This Unpredictable Life]
「予期せぬ人生にも、この一台は対応します」というコアメッセージをアニメで表現。(上:CM)
さらに、独自のiPhoneアプリを使用してCMに登場するキャラクターをキャプチャし(下:解説映像)
アイテムやキャラクターをコレクションするゲーム性を持たせた。
TVCM=非インタラクティブという概念に一石を投じさせるとともに、
CM視聴デバイスとしてのTVの新しいあり方を示唆した作品。
嶋:
視聴デバイスが多様化していくと、「デバイスとそれに対する見方・態度の違い」も無視できない。自分は雑誌の編集をずっとしてきたが、雑誌とWebの文脈は明らかに異なるし、雑誌の文脈をそのままWebに持ち込んだりしたら炎上することも。それぞれの文脈を理解したうえで、デバイスを”越境”する能力を持った人が増えているし、境目から新たなクリエイティブが生まれてきているのでは。
河尻亨一氏(以下:河)
確かに原稿書いてても本かWebかで書き方変えてるかも。本は目指せ100点だけど、Webは70点で突っ込みどころ作るみたいな。両方やるのは確かに難しいですね。
う:
日本は、「ひとりでもできなかったりわからないものはやらない」風潮が強いでしょ。特にマスで何かやろうとするとき。だからなかなか突き抜けられないのかも。Jazzの事例も誰でもできる楽しみ方じゃない。できない人が多少いてもやっちゃったほうが面白いものできるのに。
嶋:
いずれにしても、仕組みだけじゃなくて、「ネタの面白さ」は一番。twitterやfacebookを絡めた企画が8割以上あって審査してて飽きてくるんだけど笑 ソーシャルメディアがあるからバイラルするんじゃなくて、【ネタが面白いからバイラルする】んだよね。そこは間違っちゃだめ。
”新規性”と”継続”
河:
嶋さんは審査員として参加するわけだけど、今年のPR部門で来そうな作品は?
嶋:
社会規模での態度変容を起こして社会問題を解決するような、そういうものに注目が集まるのではないか。世の中の役に立ったといえるような、そういった意味で、チュニジアのこの事例には注目している。
[Tunisian Revolution : JUNE 16th 2014]
2010年12月に起こった一人の若者の自殺を発端に、独裁政権に対する国民の不満が爆発。
今年1月に大統領を国外逃亡に追いやったチュニジア・ジャスミン革命。
革命後の政情不安や相次ぐストライキ・経済停滞を何とかしたいと、
メーカーブランドや広告業界が行ったキャンペーン。
6つのメーカーと5つの国内メディアとコラボして、全国民がずっと望んできた、
【理想的な民主主義国家】が実現された”3年後”を、
特設サイト、facebook、twitterなどで拡大し、マスメディアがこぞって取り上げた。
このキャンペーンを機に民衆の勤労意欲の向上や経済活性化が実現。
主催した企業のビジネスにも大いにプラスに作用したという事例。
嶋:
この手の作品は審査員が好きそう笑 新規性を持って社会をポジティブに転化している。ただ、社会問題解決型のアイデアはパッと見、とても巣晴らしそうに見えるけど”無責任なアイデア”だけだったりするので。たとえば「原発反対運動を増幅させ実際に動かしたPR」とかいっても、じゃあ原発廃止にして代替エネルギーはどうするの?というところまで設計できていなかったり。それでは本当の意味で、価値ある社会問題解決にはなっていない。問題提起だけでも役割を担ったという人もいるけど、問題提起しっぱなしではコトを荒げるだけのことも。自分はそういうのには票入れないと思う。で、この手のとは別の意味で注目したいのが、Gatorade / Replay2.3 ↓
Gatorade [Replay : 2 / 3]
「人はいくつになってもチャレンジができる」というコアメッセージを軸に、
一昨年から展開されているプロモーション。
「1」のアメフトに加え、今回は「アイスホッケー」と「バスケットボール」で、
基本、同フォーマットで展開している。
オリジナルソングの作成やグッズ販売、
Webコンテンツの充実や、海外での展開など、
インテグレーテッドキャンペーンとして広がりを見せている。
嶋:
これなんかは去年のカンヌで賞を獲りまくったわけで、シリーズでエントリーされてもコアアイデア自体に新鮮味は正直ほぼない。でもPRでは、「同じ企画を継続して展開していく」ことは鉄則のひとつ。ここにもあるadとPRの考え方の違いをカンヌはどう裁くのか、自分を含めて考えたい。
う:
カンヌ全体としては「Flesh Idea」を賞賛すると標榜している。チュニジアもリプレイも、「世の中のムードを好転させる」意味では骨太で強い企画だと思う。そういう意味でPRは「気持ち製造装置」だと思っている。いずれにしても、デバイス関係なく、”ビッグアイデアが真ん中にあるか”こそ評価の軸にあると思っていて、「本当にいいクリエイティブが作れるか」というクリエイティビティの基礎体力こそ重要だと思う。
どうなる、ソーシャル?
河:
で、ソーシャル。正直、個人的には飽きてきてるんだけど、今年はどう評価されそう?
う:
まだまだHotなジャンルとしてたくさん出展されると思う。でももはや、「ソーシャルでこんなにバズったよ!」という量の問題ではなく、「いかに新しい使い方を示唆したか」という質の問題になってきていると思うし、そういう意味では、評価される作品には何らかの面白みがまだあると思う。
河:
ソーシャルに限らずだけど、「仕組み」勝負の作品は正直難しくて、直感にすぐ来ない感じが。理屈を突き抜ける無条件の気持ちよさみたいなものは、やはり映像には期待したい。
義:
僕はこの2作品に、映像のパワーという面で受賞すると読んでいる。
Lotto [Lucky Dog]
ロトくじのCM。説明不要。
製作はDDB
Volkswagen [The Force]
フォルクスワーゲンのCM。こちらも説明不要。
Webなど他の接点と特段連携がないにもかかわらず、
396,869,887PVという驚異的数字を記録 (2011.06.09現在)
嶋:
いいですね、大好きです笑 これくらいパワーがあるクリエイティブが、結局はバイラルしてソーシャルメディアに乗っかるんだと思う。受賞するような作品に限らず、カンヌに行くと毎日浴びるように世界中のCMを見れる。ショートリストに残らないようなしょーもない(笑)作品もたくさん見れるわけだけど、そういう作品をたくさん見ることこそ、世の中の空気の真ん中を知るいい修行になると思う。ちなみに2010年のキーワードは「裸」「なんかをぶっ壊す」「踊る」だったね笑
広告としての役割
河:
ここでちょっと疑問提起。昨年のフォルクスワーゲンの「The Fun Theory」なんかもそうだけど、本当にクライアントの広告になってんのかとか、僕なんかはすぐ疑問に思ってしまうんだけどどうなの?
嶋:
「人々に気づきを与えて生活をハッピーにする」という価値観の表明になっているから、ちゃんとブランドの資産になっていると個人的には思う。でも指摘もごもっともで、そういう意味ではソニーのこの企画は全てが上手にリンケージできている。普段、考えもしない社会問題を、身近な話題としてハッピーニュースに昇華した形でお知らせする。PRとしてキレイな作品だと思う。
SONY [Earth F.C]
サッカーの国際試合の舞台になることが少なくないアフリカの国々。
にもかかわらず国民の多くはTVを持っておらず試合を見ることもできない事実に対し、
「自社のモニターをパブリックビューイングに使ってもらう」というプロジェクト。
「アフリカ国民はサッカーが見れていない」という気づきの啓発と、
自社製品を使った問題解決。鮮やかな企画。
カンヌに行ったらどう過ごす?
義:
何しろ人に会う。それは人脈拡大というビジネス上の狙いももちろんあるが、間違いなくモチベーションがあがるから。自分の実力は世界に対してどれほどのモノで、あとどのくらい頑張れそうか。世界との距離を肌で感じてほしい。
嶋:
帰ってきてから是非、「デコン」してほしいですね。De-constructureのこと。博報堂ケトルではカンヌのあとに、社員全員で受賞作をひとつひとつ、「何がビッグアイデアだったのか?」「生活者のどんなインサイトをどのように突き動かしたのか?」「この作品の一番のウリはなにか?なんで受賞したのか?」などを議論していく。なんとなく抱いている感想や意見を、一度腰をすえて言語化してみると、血肉になる。まず因数分解してみよう。
う:
デコンは自分も大好き。デコンすると、どうしてそれが一流のアイデアだったのか、改めて思い知らされる。そういう、自分じゃどう逆立ちしても思いつかないようなアイデアを生み出したクリエイターたちに直接出会えるのもカンヌのいいところ。あと冷房が効きすぎて死にそうになるので、必ず羽織るものを持っていくこと!笑
河:
銀河ライターも今年カンヌに乗り込む予定です。現地からリアルタイムでどんどん情報発信していくので、是非見てください。では、お三方、ありがとうございました!
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こんな感じの約2時間でした。知らない事例もたくさんあり、結構楽しめたかな。個人的にはフォルクスワーゲン「The Force」がめちゃくちゃ好きだし、あーいう映像を見たときこそ、クリエイターに嫉妬しますね。仕組みは仕組みだけでは片手落ちで、そこからさらに表現でどこまで頑張れるか。理屈でけでは動かない人の気持ちをつかむにはその考え方、大事にしたい。
加えて、「デコン」というスタディ方法も参考になったな。noproblem school でも少しやったこの方法、もっともっと長期的に継続して、いろんな人といろんな見方考え方を共有してやれたらすごく勉強になるんだろうな。誰か一緒にデコンサークル作りませんか??笑
一方で、日々のクライアント業務との乖離をすごく感じちゃったのも事実。自分の日常業務に対する向き合い方にクリエイティビティが足りないのか、カンヌがクライアントビジネスの成功と遠いところにあるのか、ただ単純に「行きたいのに行けねー」っていう嫉妬と羨望からなのか笑 いずれにしても、自分も若いうちに一度は行ってみたいし、それより何より、受賞される側に回れるように頑張りたいっすね。
以上、【Future Communica vol.3 Cannes Lions 2011 pre Meeting】のレポートでした。
(文・吉田将英)
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