2011/07/11

東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.07 野村友里氏 (2010/11/29)

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前回までのログ
  
東京企画構想学舎ログの第7回目。だいぶ間が空いてしまいましたが、今回はフードディレクターの野村友里氏が講師です。「フードディレクター」のお仕事の内容から始まり、人間にとって生命活動の根源である”食べる”ということに根ざした企画のやりがいと難しさを、野村流企画術にと併せて語っていただきました。今回は対談形式の授業ということで、更なる特別ゲストとしてコピーライターの国井美果氏と編集者の伊藤総研氏も加わって、にぎやかでなごやかな授業になりました。

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野村友里 (フードディレクター)
ードクリエイティブチーム「eatrip」を主宰。
レセプションパーティなどのケータリングフードの個性的な演出や、料理教室を行なうほか、
アートとして食を捉えた雑誌やラジオ、テレビなどの連載等、食の可能性を多岐にわたって表現し、
その愉しさを世に伝えている。
映画「eatrip」では初監督をつとめ、現在も国内外で上映されている。

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 国井美果(コピーライター)
1971年東京都生まれ。コピーライター。ライトパブリシティ所属。
主な仕事に資生堂企業広告(一瞬も一生も美しく。)
資生堂「マキアージュ」(ビューティー・クライマックスはじまる)など。

伊藤総研(編集者) ※写真右
構成作家としてキャリアをスタ-トし、その後ドキュメンタリ-作品の制作、
雑誌、TV、ラジオ、ネット、広告と全ての媒体に関わる編集者。
雑誌「BRUTUS」のカルチャ-ぺ-ジを7年担当。





フードディレクターのお仕事
 
「今日は、私がここまでどうやって”生き延びてきたのか”をお話しますね」
そういって話し出した、野村友里氏。普段、講師業は全くやっておらず今回が初めてということで、助太刀にと国井美果氏、伊藤総研氏を従えて、対談しながらの授業になりました。まず取り上げたお仕事が、2010年のTCC(東京コピーライターズクラブ)の年鑑のアートディレクションのお仕事。

 コピー年鑑2010
広告は料理だ!」をコンセプトに、
受賞者たちをコックに見たててアートディレクションされた一冊。
野村氏はコピーライターたちの”料理の先生”兼、
年鑑中に出てくる料理のディレクションを全て担当。

”環境、場、そこに立ち上がるつながりまで考えてこそ料理人である”という野村氏の持論に意気投合した年鑑のデザイナーだった国井氏がコンセプトを開発。【料理もコピーも、思いをとどけるコミュニケーションであり、おもてなしである】という裏のメッセージをこめた、洒落た年鑑になっている。

母が料理教師という家庭に生まれた野村氏。大学時代はカメラマン志望で、結局はインテリア会社に就職。インテリアのデザイン・販売をしていくうえで、『人の生活に入り込まなければいいインテリアは売れない。』という事実に気づき、インテリア以外のジャンルとの積極的なコラボレーションを通じて、モノ以前に生活をより意識するようになる。そして最も注力したコラボレーションが、料理とのコラボだった。それは、食こそが生活・そして生きることと最もダイレクトにつながっているドメインだったから。やがてチームでの仕事スタイルを求めて、プラットフォームとしてフードディレクション集団【eatrip(イートリップ)】を結成し、グラフィック、空間デザインなどの多様な人材で構成されたチームで活動している。

eatripとしての仕事は多岐にわたるが、大きく分けると【ケータリング】【雑誌・書籍企画】【映像】の3つに分けられる。

【ケータリング】
ブランドロンチやショップオープンなどのプレス発表パーティを主な場として、クライアントのその場に対する要望を丁寧にヒアリングした上で、望まれる世界観を実現するための、そのときだけのケータリングを行うというお仕事。多くの人に広く知らせるのではなく、その場に確かに足を運んでくれた人たちに最大限、いい思いをしてもらうための企画になるので、あまり認知はされていない作品ばかりだったが、是非その場で実際に食べてみたいと思わせる料理ばかり。いくつか紹介を。


Case1 【ORIGINS】press party 2008 summer
自然派コスメブランド【Origins】のプレス発表会。
オーガニックでカラダに害のないブランドという価値を食にも踏襲し、
『食べれるコスメ』というコンセプトでケータリングと空間設計を担当。
食を取り入れたおもてなしの方がプレス発表会の滞在時間が長くなり、
より濃いブランド体験を通じて興味を喚起し、本質価値まで理解してもらった上で
記事として取り上げてもらえるだろうという狙い。
会話がたくさん生まれた、なごやかなプレス発表になったとのこと。


Case2 【FINAL FANTASY 13】 Press Party
「地球のはじまり」をイメージした料理空間を設計。
スポンジ生地やフルーツ、野菜を利用して、
原始の地球の表面を作り上げた。
大地のほとんどは食べられる設計になっており、
オーケストラの生演奏とともにアンベールされた、
広大な料理の世界に一同ビックリだったという作品。


Case3 Pass the baton omotesando】 Opening reception
思いと共に受け継いでいくというコンセプトのリサイクルアイテムブランド。
その表参道店のオープニングということで、料理もリサイクルがコンセプト
そこに参加してくれたお客さん同士の間に”バトン”が起こるように、
手渡しで参加者が回す”あきびんジャム”を多数用意。
その他の料理も「人の手から手へわたる」ことを念頭に、
取り分けたり、酌み交わすことを設計に織り込んだ。
コミュニケーションも和やかに進み、ブランド思想を投影したかのような、
暖かいレセプションになったとのこと。

※その他のworksはコチラをどぞ。


ただ単においしい食事を持っていくだけでなく、依頼主がその空間や、その場に招待したゲストに何を【伝えたい】のか。徹底的に事前にヒアリング・ミーティングを重ねた上で、それを”料理による総合空間コーディネート”で具現化する。「料理によるコミュニケーション」を地で行く野村氏の作品の発想の自由さに、単純にワクワクさせられる。



【雑誌・書籍企画】
eatrip名義での雑誌連載や書籍出版の実績も多数。単なるレシピ紹介ではなく、単なる料理評論でもない、「食と、それに関わる人の思いを浮き彫りにする」ことをいつも考えているという野村氏。その思いに共感し、食べてみたい!と思ってくれる人のためにも、もちろん当然レシピはついているわけだけど。何しろ普遍的なテーマなので、誰でも巻き取れるのが”食”の強さだなあと思う、出る側も読む側も。ひとつだけ作品を紹介。


Case4 われらがeat☆star】 雑誌「装苑」連載企画
食べ物を切り口にゲストのパーソナリティに近づく企画。
ゲストのキャスティング+その人のための料理企画をミニマムに、
メイク、撮影、取材インタビューまで総合的にプロデュース。
大好物・懐かしの味・大好き食材のフュージョンなどなど、
ゲストの”らしさ”が存分に発揮された、おいしそうな記事ばかり。たとえば、
浅野忠信氏×浅野家のジャンボコロッケ
石川直樹氏×だし巻きたまご
箭内道彦氏×すずきのいちごマリネ などなど。
写真は、荒川良々氏×よしよしチキンカレー の巻。
必要ならば、ゲストの母親にレシピ取材まで行うほどの徹底振りで
充実のインタビュー記事になっている。


「人にはおいしいものを食べたときしか、話してくれない話がある」という野村氏。その思いが見事に結実した、プライベートなインタビューに成功している。これ以外の誌面企画も多くは、誰か「人」が介在し、そこに「思い」を顕したものがほとんどだという。それこそがその、”食”と”ココロ”の密接不可分な関係性の下に、巧みに、かつ人間くさく企画を立ち上げる野村氏の真骨頂なのかも知れない。



【映像企画】
eatripおよび野村友里氏の名前を一躍有名にしたのが、初監督作品「eatrip」。”生きることと食べること”に静かにスポットを当てたドキュメンタリー作品で、野村氏はコンセプトメイキングと総監督ほか、劇中の料理の監修ももちろん担当している。





”なぜ映画を撮ろうと思ったのか?”という問いに対し、野村氏は、


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『物の選択に追われる毎日。そんな中でも食というのは、取捨選択する前の普遍的な共通のテーマだと思った。映像にしたのは、それが一番、感じる伝え方だと思ったので。ひとつの答えを出すつもりはなかった。共有感と共通感、感じることがキーワード。』
==

と答える。出演者の普段の生活にお邪魔しただけの、ありのままの撮影にこだわり、音もその場の生の生活の音にこだわった。

国内外の8つの映画祭に招待された今作は、『生きる』『食べる』というテーマがもつ普遍性のあるの力強さと注目度の高さを証明している。しばらくDVDを出さずに、ゆっくりと全国を巡回しながら上映するという形態を選択した野村氏は、「そこに人が集まって同じタイミングで何かを感じることにこそ、この映画の意味があると思っている。そしてそこに食や、それに関する議論の場が生まれる。それこそが自分が映画を通じて実現したかったこと」と語ってくれた。


胃袋でシンクロする

最後に質疑応答を受けてくれた野村氏。いくつかそこでのやり取りをご紹介する。


Q.食は普遍的であると同時に、人それぞれの好みが強いジャンル。特にケータリングにおいて、どうメニューを決める?
A.何よりまずオーダーをくれたただ一人の人だけを喜ばすつもりで考える。まずそこから波及していくし、そこがクリアできないとそれ以上の人たちには広がっていかない。おもてなしする主が自信を持って、「これはおいしいでしょ?」と思えるものを。そのためにはまず、主が好きなものを考える。

Q.好きなことを仕事にすることについて。料理が嫌いになったりしないか。
A.仕事にしてるつもりはあんまりない。ワクワクすること、誰もやってこなかったことに飛びこんでいって、食と人のつながりを面白く仲介していくのが自分の使命だし、たまたまお金をいただけているのが現状。だから不安定だし、これでお金とっていいの?と不安にもなるが、自分が見ている価値そのものには自信があるし、そこに向かって進んでいくこと自体に不安はない。だから楽しく頑張れている。


Q.仕事をする上で最も大事にしていることは?
A.人の心を考え尽くす。料理はココロが通じ合うことにこそ価値がある。同じ物を胃袋に入れること自体が、すごく密なコミュニケーションだと思う。なので、”完璧”はあまり目指さないしそんなものはないと思う。完璧なものはひっかからない。完璧じゃない部分に、外から物が入り込める。完璧だとそれで終わってしまう。その穴に、相手を巻き込めるかもしれない。

Q.自分の仕事にお金をつけるとき、どう考えている?
A.良心価格だと思う笑 原価プラス数%で。でもこだわりたい主義で、諦めない。やっているうちに原価がオーバーしていることも。でももし折り合いがつかなかったら自腹切ってでもやる。責任があるし、人になにか伝わる物だし、やり通す。



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講義から、考えたコト

何よりも「コミュニケーション」の実現を料理において目指していた野村氏。言葉よりも原始的かつ普遍的といっても過言ではない「食」をドメインに企画を世に送り出している彼女の作品は、いろんな理屈はおいておいてまずなにより「おいしそう」だった。人が「おいしそう」なものを目の当たりにしたり、実際口に運んだときには、そのときにしか見られないその人の本音・素があるという言葉には深く納得したし、それこそが彼女の企画術の全ての出発点にあると感じる。

それと同時に”食”を企画のドメインにすることの難しさも感じたというのが正直なところ。レストランを経営するような事業主になるのならまだしも、誰かと誰かを繋ぎ、価値を伝え合う「コミュニケーション」に対価をどのように設定し、価値を実感してもらうか。客観的に評価することはきわめて難しいと思う。だからこそ、野村氏が言った「なによりオーダー主を喜ばせる」という出発点は納得がいったわけです。”主観的な満足”をいかに積み重ねていくかこそ、彼女の価値の蓄積になるし、料理とはそもそも、そういう世界なのだと。何しろ食べて、「おいしい!」と思ってもらうことに全てがある。そういう意味では、「絶対価値・絶対評価」が占める割合が非常に多い、稀有な企画ドメインなのかも知れない。ま、稀有といっても、それは全ての人間が自分ごと=自分の主観でジャッジできてしまうほどの揺るがないテーマだということの裏返しでもあるのだけど。

絶対価値で勝負することから逃げず、実際に口に入れてもらうことでそれを証明する。そして、ただおいしいだけにとどまらず、そこにコミュニケーションをもたらす。野村氏の企画術は骨太ながら、今まであまりなかった立ち居地だなと思ったわけです。

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そして恒例の課題。野村氏が出した企画は、他の講師よりも非常に抽象度が高いものでした。

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月でのパーティーへのケータリングのオーダー
招待客、12名。月にお客様、地球人ではない。
時間も予算も上限なし。
20・・年○月○日 満月の日
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なんともメルヘン笑 ただこの課題で野村氏は、「自分と立場が違う人間が何を思い、何に喜ぶのか、考えつくす訓練をしてほしい」との狙いを持って出してきたとのこと。マネタイズやフィジビリティと向き合う以前の、「慮るココロ」を、食という全生物共通の企画ドメインだからこそ設定したかったというわけです。


次回の授業では、野村さんも課題をやり、かつ実演するというものすごい展開を見せたわけです。まさに、「主観で実際に体験することの強さ・間違いなさ」を思い知ることになった講義でした。野村氏の授業は2回連続でしたので、次の東京企画構想学舎ブログも引き続き、野村氏の授業をご紹介します。Coming Soon! (になるように頑張ります・・・)


(文・吉田将英)

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