2011/06/13

東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.06 千房けん輔氏 (2010/11/22)

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前回までのログ
  
東京企画構想学舎ログの第6回目。今回はメディアアーティストの千房けん輔氏が講師です。これまでの講師陣には主に、「依頼を受注する形での企画」について講義をしていただいたのに対し、千房さんは「自分のうちから企画を立ち上げる」ことの考え方や自分流の企画術について語っていただきました。授業の後半には、「計算の外側にある偶発性」を実際に実験を通じて体感でき、気づきの多い充実の2時間半でした。

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千房けん輔 (メディアアーティスト)
アートユニット「EXONEMO (エキソニモ http://exonemo.com/)」メンバー。
「株式会社 AAAAAAAAAA(エイテン http://aaaaaaaaaa.jp/)」COO
EXONEMO では赤岩やえと共に WEB 上の実験的アートプロジェクト、インスタレーション、
イベントプロデュース、ライブパフォーマンス等を行い、国内外の展覧会・イベントに多数参加。
2010 年より岸本高由と株式会社 AAAAAAAAAA & Co.(エイテン)を立ち上げ、
コミュニケーションを軸にした Web サービス/ソフトウェアを企画開発。
その他、個人名義で WEB とリアルな場所を絡めた
インタラクティブなキャンペーンの企画/テクニカルディレクション等を行う。
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メディアアートとは?

「依頼を受けて応える仕事よりも、ゼロからアイデアを考えるスタイルが多いのでそういった視点で話します。」という切り出しから始まった今回のレクチャー。メディアアーティスト・千房けん輔さんの活動は大きく分けると、アート・広告・開発】の3つのジャンルにまたがっており、それぞれのフィールドで得たナレッジや人脈、新たなテクノロジーをシナジーさせながら、メディアを通じてそれまで人が体験したことのないような新しい企画を生み出している。

今年で活動14年目を迎えたアートユニットエキソニモ」では、webキャンペーンの企画、ディレクション、インスタレーション、ソフトウェア、ライブ、イベントなど多岐にわたって作品を発表し、【アルスエレクトロニカ】大賞をはじめ国内外で数々の受賞暦を誇っている。一方、株式会社AAAAAAAAAA【エイテン】では受託による仕事は一切せず、Webサービスとソフトウェアを自社開発しそれを売り込むという形で運営をしている。こちらでは主に、テクノロジストとして実験的な試みを中心に開発を行っている。

これらのバックボーンでの経験を活かした広告分野での作品も数多く世に発表しており、学科長である伊藤直樹氏との仕事も少なくない。まずは彼が実際に手がけた事例から、メディアアートとは何なのかを感覚的につかむところから授業がスタート。


Case1 【BIG SHADOW】
Xbox360ソフト[ブルードラゴン]のローンチキャンペーン。
「自分の影からドラゴンを召還して戦う」というゲームの基本コンセプトに対して、
渋谷道玄坂のビル壁面に巨大な影を投影するというインスタレーションを考案。
ドラゴンを投影するだけでなく、自分の影を巨大化させて写したり、
ドラゴンの動きを操作して自分と掛け合わせるなどの、
インタラクティブ性も実現。
本人いわく、「高性能プロジェクターが一番ネックだった」とのこと。
レンタル金額が非常に高価であったが、話題性の瞬間風速にかけ、
実施を三日間限定にしたうえで、事前に告知を十分に行った。
結果は、行列ができるほどの大盛況で、Web上でも大きな話題に。
千房さんは、最初のアイデア出しと、テクニカルなディレクションを担当。
広告プランナーの人はテクニカルが分からないことが多く、
そこを助ける、プランとテクニカルの橋渡しをしたという事例


Case2 【AKARIUM CALL】
表参道の欅並木で行ったイルミネーション企画
「イルミネーションが木に良くない!」ということで、行灯風のイルミネーションにした。
それだけでなく、専用番号にかけると15秒間だけ全てのイルミネーションを独占して
声の大きさに呼応して明るさが変わるインタラクティブなギミックも仕込んだ。

照明のプロたちとのコラボで実現した企画だが、照明業界はとても封鎖的で徒弟制度で、
やりとりがとても大変だったと千房さん。
技術者にはあえて初めから技術サイドから話を進めた方が、
コンセプトや演出面、アウトプットから話すより理解が早いという発見があったという。
クライアントは表参道町内会的な団体の方々で、

安全性、ふさわしさ、金額など、いろいろな面でなかなかご理解いただけなかったが
粘り強い提案の繰り返しが結実した結果の企画。


Case3 【IS parade】
auのスマートフォン【IS】シリーズのプロモーション企画。
ケータイのコンセプトが『シェア』だったので、
シェアする楽しみを理屈を超えた表現で伝えたいと考え、
Twitterを使ったコンテンツを作った。
自分のアカウント名を入力するとフォロワー、キーワードでパレード作成が出来、
人によってBGMも変化して行く。
世界的に広がって、あらゆる国でプレイされた。
再生回数の2位がカーニバルの国・ブラジルだったなど、
ちゃんとお国柄が反映されていたこともプチ発見。
第14回文化庁メディア芸術祭エンターテイメント部門大賞


「広告とアートは若干分けて考えている。」と千房さん。クライアントからの受託業務である以上はいただいた課題をクリアすることは必要最低条件であり、アートのエッセンスはその課題解決をよりよい形で実現するための手段になるということ。「アーティスティックかどうかというより、面白いかどうか。面白ければ結果的に多くの人に見てもらえ、結果広告としての役割をより果たしたことになる。決して自分がやりたいことをやっているだけではない」ということでした。続いては、「アート」「開発」分野での事例をひとつ。


Case4 【Fragmental storm】
キーワードからWebを検索し、見つかったページの画像とテキストを
リアルタイムコラージュするソフトウェア。
ロケーションシンク機能で現在地ともシンクロした画像を抽出したり、

iPodシンクロで再生中のアーティスト名で抽出し、勝手PVジェネレーターにも。


ゼロからのアイデア

「アイデアには
0からのアイデア”1からのアイデア”がある。」と千房さんは言う。「他人から課題が与えられそれに対して応える」のが”1からのアイデア”であり、紹介した事例の前半はすべてそれにあたる。その際の”課題”とはつまり、現状に対する問題点であり、問題を解決するための着想が【アイデア】というわけ。

では0からのアイデア”とはどういう状況なのか?それは”1”にあたる課題を、他者からもらうのではなく、自分で作ることであると。アイデアとはすべからく何らかの現状の課題に対して、その状況を好転させるために考えられるものであり、課題がないところにアイデアは存在しないと千房さんは整理している。
つまり、「ゼロからのアイデア」を考える上での第一歩は、自分で問題を見つけること、そしてそこから課題を設定することになる。自分が問題だと思うこと、感じることを、普段の生活、社会の中からいかに気づくことが出来るか。誰かからお題をいただくのではなく、自分で社会や人々に内在する課題を拾えるかこそがすべてになるということ。

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「不満だから音を鳴らす。問題は不満と言い換えられる。出発点は、ネガティブなパワー。問題がないなら、幸せなわけで、アイデアを無理に求める必要がない。不幸だからアイデアが必要。もしかしたら問題に気づいていないだけかもしれないけど。」
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自分から出す。そのために、自分自身を客観的に観て、無意識の反応を感じる訓練をしていくといいと千房さんは語った。人間はかなり敏感に周囲の環境や状況に無意識に反応していて、それに気づけるかどうかに人との差があるのだと。自分の感性をセンサーだと感じてみて、ある特定の物質や現象を感知する装置のごとく、客観性を持って自分を見てみる第三の目が課題を炙りだすと。

一方で、センサーが取りこぼしたもの=ノイズを感じることも大事だと。たとえば、
「この絵全然好きじゃないんだけど、なんか気になる。」
「こないだ発表すごくうまく行ったんだけど、なんか引っかかってる。」
などの、いわゆる、ざわざわする感覚普段は無視してしまう自分の無意識のノイズに、まだ発見されていない価値を発見できることは非常に多いと千房さんは言う。無意識を見つめることを訓練してみようというアドバイスが、個人的には発見の一言だったかな。

実験精神を大事に

「自分の感覚を信じる」ために、「自分を疑う→センサーを疑う」ことでより自分の中の審美眼を信じられるようになっていく。自分の能力は限定的で、自分が思っていること、意識、理性を疑わしいのだと思えれば、より自分の内なるセンサーに鋭敏になれると千房さんは言う。その上で、考えるのは頭だけじゃないとも。
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「脳は体であり、外界であり、世界である。全ては脳がセンサリングしたもの。つまり、行動すらも思考そのもの考えてから実行するのではなく、実行すること自体も思考の一部であり、行動からフィードバックを繰り返すことが咀嚼だと思う。ゆえに今の自分と明日の自分は、別人なんじゃないかな。」
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安定化しない。自分を定義しない。とらわれない。浮遊させる。行ったことのない場所にいく。不安の渦中を楽しむ。それらの行動を意識的に、実験的に自分の身体であり脳に与えていくことによってしか、センサーの感度がよくなっていかないということで。
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「重要なことは、とにかく実行することそして結果に対して、センシングすること。それを繰り返すこと。周りの評価とは関係ないところで、自分のココロの引っかかりを無視しないように感じよう。それを繰り返していけば、”ゼロからのアイデア”が生まれる土壌が脳に出来ていく。」
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では、”1
からのアイデア”を成功させるためにはどのようなアティチュードが必要になってくるのか。千房さんは、「与えられた課題の中で、自分が感じられる問題を見つける。」ことで、自分が日ごろ抱いていた”ゼロからの課題意識と、ゼロからのアイデア”とシンクロさせるという。課題の中に時間をかけて没入し、自分の問題として解決を図ることで、アイデアの質が格段に上がる。千房さんは、2時間ブレスト(1時間でチャクラを開き、1時間でまとめる)をよく行っているそう。


カオスを愛する精神


授業の後半は、メディアアート実験を通じて、「計算の外側の偶発性」を皆で体感する企画になりました。行ったのは”リアルチャットルーレット実験”。事前に一人ずつに配った番号に基づいて、システムがランダムに2人を指名。指名された2人は仲が良かろうが悪かろうが話をしないといけない。ほかの参加者はケータイを介してその二人の会話に飽きてきたところで「飽きたボタン」を2人双方に押すことができ、計2回そのボタンを押されたほうはその場で終了。次に指名された番号の人間と交代になる。

誰といつ話すのか。ひとつ前の話題は何なのか。会場のウケ具合はどうなるのか。不確定な要素を、システム・ルールで強引にそこに成り立たせることによって、予想や計算の外側に行ってみようという実験。やってみると、偶然職場の最寄駅が一緒だということが判明したり、共通の知り合いが見つかったり、その人の新たな一面が発露したり。一方で、全く盛り上がらないペアの回も混ざっているわけです。実験の総括として千房さんは、
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「不安定な手探りの中から、未知の面白さが見つかる。うまくいかないかもしれないことを、どんどんやる。企画倒れや中断を怖がらないことも、訳の分からないくらい素晴らしくて新しいものを世に出す上で必要な勇気だと思う。もちろん、必要十分にリスクヘッジはした上で」
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もうひとつ、”継続すること”も新しい企画を世に生み出す上で必要な姿勢だと千房さんは言う。今回のチャットルーレット企画も、途中でグダグダになりかかった時間もあった中で、辛抱強く続けた上での発見も少なくなかった。ルールやシステムを少しずつ調整しながら、同じことを違う切り口で反復体験する。そこからなにかが見つかるし、その発見は他者がなかなかたどり着けないという意味でも価値が高いことが大きいとのこと。
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「うまくいくかいかないかがあるから面白い。うまくいくかどうか分からない緊張感自体を面白がっている節が自分にはある。絶対に失敗できないという”土台”の部分に加えて、どうなるか分からない”遊び”の部分を盛り込んで面白いものを作りたい。カオスを計算に織り込みたい。」
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講義から、考えたコト

飄々としながらも、どこか自信なさげに話す千房さん。彼の講義から感じたキーワードは【身体性】【カオスを設計する】【アイデアファーストの回路】の3つ。

【身体性】については、これまでの伊藤直樹学科のほかの講師陣と共通して企画に盛り込まれているように感じた。【Big Shadow】【アカリウム】【IS parade】などなど。リアルな自分の身体を直接触媒にするものはもちろん、バーチャル世界でもリアルでの身体性や、そこから立ち上がる感情を非常にうまく捉えた作品が多い。伊藤さんが集めた精鋭ということで当然フィルターがかかっているとはいえ、”人の気持ちを大きく動かす一流の企画者”といわれる人は、対象の身体に対して非常にデリケートに、かつ大胆に何らかのアプローチを必ずしているのではないかと思ったわけです。

【カオスを設計する】ことについては、ほかの講師陣にはあまりなかった視点ではないかと思います。「大きな設計図の枠組みの中に、どうなるか分からない余白をしのばせる」ということは、相手が人間である企画には全て共通していることだとは思いますが、問題はそれを、”極力抑制し、カオスを最低限にとどめる企画”と、”上手く転がすことによって設計者の想定を超えた効果や面白みに到達させる企画”は全く向いている方向が違うなあということ。千房さんの企画は、ある一定のアフォーダンスを含みながらも、その外側も併せて意識されたものが多く、自分自身が思いつくアイデアの範囲に対していい意味で客観的に、かつ過大に見積もることなく、他力本願な部分があり、そこが発見としては大きかった。

一番大きかった気づきは、【アイデアファーストの回路】。普段、クライアントからもらったオリエンに対して解決策を考えることがほとんどな自分にとって、受注ではなく「勝手に面白いものをまず作って、売り先をあとで考える」というアーティストとしての千房さんの構えはとても新鮮でした。伊藤さん初め講師陣全員が言っている、「企画をするうえでの信念」と近いのかも知れませんが、「相手に関係なく、自分はこれがやりたい・こうだったらもっといいと思う」という衝動をいかに持っていられるか。そしてその衝動を聞く、自分の内なるセンサーに自覚的にいられるか。千房さんのまるで仙人のような自己客観性は、”やりたいように好き勝手表現する”というようなアーティストのイメージとは対照的で、それがとても印象的でした。

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千房さんからの宿題は、以下。

AAAAAAAAAAが運営しているウェブサービス【IZONN】を使ってUSTREAM放送を次回授業でチームごとにすること!

IZONNとは、Ustreamのチャンネルに、投げ銭ができるというサービス。PayPalとUstreamを組み合わせたもので、ビューアー数ではなく、ゲット金額がリアルタイムで表示される。1チーム15分の放送時間で実際に放送を行い、獲得金額で企画のよしあしを評価しようという、超実践型の宿題です。とにかく何でもやってみて失敗から学びを得るという、千房さんらしい宿題。この宿題の模様は2回目の千房さん授業のログのときに書いてみようと思います。

次回は、フードディレクターの野村友里さんの授業ログをアップいたします。しばらくお待ちを・・・


(文・吉田将英)

6 件のコメント:

  1. はじめまして。東京企画構想学舎に興味があるのですが、受講することによって就職に有利になるようなことはありましたでしょうか?

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  2. 僕は社会人で通っているので体験としてはないです。

    ただ推測ですが、「ここに通っていた事実」それだけで何か有利に働くということは無いと思います。これはあらゆる資格や学歴に共通すると思うのですが、そこで学んだことを踏まえて、「じゃああなたは何をしたの?」こそ、問われる部分だと思われるからです。

    何か成し遂げたいことがある人にとってはこの講義はモチベーションという観点からもアイデアのヒントという観点からも大いに参考になると、自分は感じました。

    返信削除
  3. お返事ありがとうございます。
    逆にお聞きしたいのですが、広告関係が志望でこれまで各広告賞に応募するなどしてきたのですが(受賞歴はなし)それ以外に各広告学校に通うことで就職に有利に働くことはありましたでしょうか?

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  4. 前コメントと全く同じです。
    「通っていたという事実」はどうでもいいです。
    「で、何ができるの?やったの?」が全てだと思います。
    通ってて出来ない人もいれば、通わなくても出来る人はいます。
    ラベルは、どうでもいい。

    返信削除
  5. お返事ありがとうございます。
    なるほど・・・通うことが重要なのではなくスキルをあげることが重要なのですね。
    吉田さんは広告会社勤務ということですが、普通に就職活動をされて入られたのですか?
    その際に自分の作品集などを持ち込んでアピールなどはされたのでしょうか?

    返信削除
  6. 特に何か変わったことをしたわけじゃないです。
    「自分は何がやりたい人間なのか(会社とか関係なく)」
    「そのために今何をしているか。どうしていくのか。」
    「それによって、その会社もハッピーなのか」
    この3点がびしっと伝われば、とりあえず就活は大丈夫ですよきっと。

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