前回までのログ
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SPBS作家・ライター養成塾 夏期集中講座
SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS主催の添削通信講座、
「SPBS作家・ライター養成講座」の夏期講習版ということで、
計4回の授業に文章で生きて行くうえで必要なノウハウを
ぐっと凝縮した、夏期のちょっとした集中講座です。
SPBS作家・ライター講座の第二回目その2。前回エントリー(SPBS 作家・ライター養成塾 夏期集中講座 授業ログ vol.2-1)でご紹介した、自分の書いた雑文にどんな赤が入ったのか、今回はご紹介します。結論からいうと、「痛いとこ全部突かれたなあ…」といった印象。プロに赤を入れてもらうと本当にためになる。では、早速ご紹介しますね。(原文は上記の前回エントリーリンク参照) ちなみに添削を担当いただいたのは、柳橋閑氏でした。多謝。
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SPBS作家・ライター養成塾 夏期集中講座 その2-2 (8/29)
-今回の先生方-
柴 那典/しば・とものり
ライター・編集者。1976年神奈川県生まれ。
ライター・編集者。1976年神奈川県生まれ。
99年京都大学総合人間学部卒業。
出版社rockin’on勤務を経て2004年退職、フリーライターに。
出版社rockin’on勤務を経て2004年退職、フリーライターに。
音楽やサブカルチャー分野を中心に、
幅広くインタビュー・雑誌記事の執筆を手掛ける。
柳橋 閑/やなぎばし・かん
『Sports Graphic Number』の編集者を経て、フリーのライター・編集者に。
『Sports Graphic Number』の編集者を経て、フリーのライター・編集者に。
スポーツ、旅、ビジネスなどをテーマに各誌に記事を執筆。
モットーは「自ら体験して書く」こと。
大山貴弘/おおやま・たかひろ
ライター・編集者。1976年香川県生まれ。
出版社勤務、制作プロダクションを経てフリーライターに。
rockin’onなどの音楽媒体やIT系メディア、ビジネス誌などで
取材・ライティングを手掛ける。
大山貴弘/おおやま・たかひろ
ライター・編集者。1976年香川県生まれ。
出版社勤務、制作プロダクションを経てフリーライターに。
rockin’onなどの音楽媒体やIT系メディア、ビジネス誌などで
取材・ライティングを手掛ける。
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【祈るように、落水荘】
イギリスの生物学者が、「天使はカラダの構造上、飛べない」という研究を発表し、「無意味に夢を壊すな!」と子を持つ親や宗教家たちから大量のバッシングを浴びたというニュースを聞いたことがある。野暮な“構造的視点”は時にロマンを壊すこともあるのかも知れない。
衝動買いはあまりしないタチだが、会社帰りに寄り道した青山ベルコモンズで見つけた“ソレ”をつい買ってしまった。「レゴ・アーキテクチャシリーズ」の【フランク・ロイド・ライト 落水荘】を、11,550円で。決して安くは無かったが、何かに突き動かされるが如く、即決。小走りでいそいそと家に帰り、早速開封した。
10数年ぶりの“レゴを作る時間”は自分にとって特別な時間のように思えた。外界との通信を遮断し、部屋に篭り、他の何事にも気を取られずに黙々と、説明書の指示に従う。何か考えているのかと言われると、おそらく何も考えていない“無の時間”が自分を支配し、たまらなく心地いい。“没入”とはまさにこのこと。忙殺され気味だった最近の自分の心が欲した時間だったのだろう。約2時間の“ココロの瞑想”の後、落水荘は見事に完成した。
人のカタルシスの類型のひとつとして、「辻褄を合わせる」というものがあるように私は思う。広告会社の社員である自分の普段の仕事は、まさに「辻褄あわせ」の日々。というか、「帳尻あわせ」の日々か。限られた予算と時間、無茶苦茶な上司、それらに相反して膨らむ夢とアイデア・・・ 次々と投下される無理難題を、針の穴を通すかのように着地させ続ける。そのストレスたるや尋常ではないが、やはりその後には“辻褄カタルシス”が存在しているのだろう。
自分にとってレゴは、それらの“生みの苦しみ”を説明書がスキップしてくれた、“辻褄カタルシスのエキス”みたいなものだったのかも知れない。ただただひたすらに、ミスだけ無いようにブロックを積み上げていき、ひとつの構造が立ち上がる、そんな辻褄カタルシス。結局、仕事と同じカタルシスを引き摺っているのかと思うと若干癪なのだが、何事にも得がたいまるで“祈り”のような時間を経て、深い癒しを得られた2時間だった。大満足である。
枕元の落水荘をいろいろな角度から愛でながら、“構造的ロマン”も確かに存在するよなあと思う夜中の2時。次の日、同僚に事の顛末を話すと、「疲れてるんだなお前」と真剣に心配される、そんな危うげなある夏の出来事。
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文法上の指摘
・ダブルクオーテーションがこの長さの文章にしては多すぎる。使いすぎると強調の効果が減じてしまうので注意。
・無→な (間違いではないが、「~ではない」のときは平仮名が一般的)
・一文中に”時間”がダブリ感。「特別なことに思えた」ぐらいでよい。
・辻褄合わせのカタルシスは「類型」というより「特殊」なカタルシスに感じるが…
・「・・・」は普通、「…」→三点リーダーを使う。中黒を3つ並べるのは文法的に間違い。
総評:
【文章・文体】
凝った作りの文章ですね。文中に出てくるように「構造的視点」を感じます。「辻褄カタルシス」のような独自のフレーズ・概念を繰り出しているところも、工夫があっていいと思います。文体にも独特のスタイルを感じます。
その一方で、ちょっと文章的にギミックが多すぎるというか、若干やりすぎの感じがするのは、赤字にも書いたとおり。ダブルクオーテーションで強調するのはいいのですが、多用しすぎると、読んでいてくどく感じます。カタカナによる強調も「ソレ」や「ココロ」をダブルクオーテーションと組み合わせて使うと、ちょっと濃すぎる印象があります。
もっとも、そのあたりは好みの問題でもあって、「おれは徹底的にくどく、ギミック満載の文体で勝負していくんだ」という強い決意があるならば、その方向を極めてみる手もあります。
【プロット・内容】
プロットも基本的にはいいと思います。①枕として「構造」の話、②レゴのエピソード展開、③仕事で発生する「辻褄カタルシス」というコンセプトの導入、④レゴと辻褄カタルシスのアナロジー、⑤レゴと「構造」のアナロジーとオチ。そうした構造的な面では技巧的だし、野心的な文章だと感心しました。
ただその一方で、分かりにくさを感じるのも事実です。それは、文体や構成といった技術の問題ではなくて、イメージの連なり、キーワードの打ち出し方、結びつけ方がうまく機能していないせいじゃないかと思います。つまり、内容の問題ということです。
具体的に、キーワードの中身をちょっと吟味してみましょう。
まず「構造的視点」。これは後ろのレゴの文脈に照らすと「構造」なんですが、もともとの天使のエピソードそのものの文脈では、じつは「科学的視点」といったほうがしっくりしますよね。それを「構造」という言葉からレゴのイメージにつなぐために「構造的視点」というフレーズにずらし、さらに最後には「構造的ロマン」というフレーズにずらしている。
もうひとつの「辻褄カタルシス」。これは平たく言ってしまうと、厄介な仕事を何とか片付けたという達成感ですよね。でも、レゴで構造物を作り上げるのは、「無の時間」であり、「没入」であり、「ココロの瞑想」であり、それは精神を集中してものを作り上げた達成感ですね。その両者は、似たカタルシスをもたらしてくれるとしても、精神の働きとしてはかなり違うのでは?
そうしたキーワードの設定、イメージの重ね合わせにズレがあるので、どこかしっくりこないのだと思います。ただ、もちろん最初に言ったように、そうやって言葉とイメージをパラフレーズしながら展開していくやり方はとても凝っていておもしろいし、そこにチャレンジしたこと自体、素晴らしいと思います。惜しむらくは、ちょっと詰めが甘かったというところでしょうか。
【まとめ】
そんなわけで、狙い、文体、構成の工夫はいいと思うので、「フレーズを振り回しすぎない」ことを意識しながら、話を分かりやすく整理することも心がけてみてください。もっとも、そのせいで味の薄い文章になってしまっては元も子もないので、バランスがなかなか難しいところではありますが。
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…という感じです。
まさに、自分でもそうかもなーっと思っていたことを図星で指摘された気持ち。「フレーズの振り回しすぎ」、そうですよね… 自分でも少し、奇を衒い過ぎたなあと描きあがったときに思ったのですが、推敲の余裕が無く。イメージをパラフレーズしながらつなげていくやり方は、自分がひとつ、目標とする書き方のひとつで、今回はせっかく添削していただけるということで果敢に(無謀に?)チャレンジしてみたのです。でも自分が思っているよりもはるかに、緻密なロジックの精査がないと、どこか書いていて飛躍があるなあと不安に思っていたところは明確に伝わってしまうということが分かった。
ただ、もうひとつの発見としては、「全く知らなかった気づき」のようなものは添削の中に無かったということ。言われてみたらその通りだなあと、言われる前に気づき自分でチューンアップする努力を惜しまないこと。そして、それをひたすらに数こなして身につけていくこと。講義でも実際に言われたことですが、秘訣なんかないし、正解も無いのがライティングだと思うので、ご指摘は至極まっとうだと思ったし、だからこそ言ってもらえてありがたかった。
文章はあくまでも誰かに伝えるためにあるので、自分の文体を追い求めながらも、こうやって誰かに自分の文章について意見をもらえるのは、必要なことだと思ったし、貴重だと思ったよ。全てを鵜呑みにする必要はないと思うし、それが自分のスタイルだといってしまえばそれまでだと思うけど、読んだ人の感想は大切にしましょう。柳橋先生、この場を借りて本当にありがとうございました!
他の生徒の方々に対する赤いれもとても参考になったのですが、原文を載せるわけにはいかないので、自分のを題材にしてしまいました。
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第3回の授業は応用講義「メディアに合わせた伝え方」になります。広告屋としては基本中の基本になる、メディアのたたずまいの話から、それぞれの特性をどのように捉えて、実際のライティングにどう反映するか。講師がとっても盛り上がって押し捲った(笑)授業ですので、近日中のアップをお楽しみに!
(文:吉田将英)
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