東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.01 (伊藤直樹氏)
東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.02 (伊藤直樹氏)
東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.03 (中村拓志氏)
東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.05 (幅允孝氏)
東京企画構想学舎第二期2回目の講師は、ブックディレクターの幅允孝氏。やりたいことや思いを遂げるための未知なる働き方「ブックディレクター」自体も、彼の企画によるもの。本に対する偏愛、大好きなものへの向き合い方と仕事への昇華、そして企画する上で大切にしていることなど、本という特定のドメインに、多角的に切り込んでいく企画術は、オリジナルなスタイルだと思います。
第一期伊藤直樹学科の講師でもあり、今回の講義内容はそのときのものと多くの部分で重複しているので、重なっている部分に関しては前回の授業ログに譲り、新しく聞くことの出来たお話のみ記したいと思います。
東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.05 (幅允孝氏)
第一期伊藤直樹学科の講師でもあり、今回の講義内容はそのときのものと多くの部分で重複しているので、重なっている部分に関しては前回の授業ログに譲り、新しく聞くことの出来たお話のみ記したいと思います。
東京企画構想学舎 伊藤直樹学科 授業ログ No.05 (幅允孝氏)
今回もお話された、前回の授業の内容箇条書き (上記リンクと併せてご参照あれ)
・初期衝動と肩書きそのものの企画
・磁場の話
・事例の数々
・好奇心のワカサギつり化
・エディトリアルの可能性と今後
幅 允孝 (ブックディレクター)
BACH(バッハ)代表
人と本がもうすこし上手く出会えるよう、様々な場所で本の提案をしている。
六本木ヒルズ「TSUTAYA TOKYO ROPPONGI」、新宿マルイアネックス「Brooklyn Parlor」、
東北大学の「book+cafeBOOOK」などのショップにおける選書や、
千里リハビリテーション病院、スルガ銀行ミッドタウン支店「d-labo」のライブラリ制作など、
その活動範囲は本の居場所と共に多岐にわたる。
~~~
徹底的に、相手を知ろう
千里リハビリテーション病院の本棚
脳梗塞の患者さん専用のリハビリ専業の病院の本棚のディレクション事例。
「患者さんのリハビリの助けになるような本棚を」という依頼に対し、
脳梗塞のことから何も分からない幅氏は観察を開始。
まず目をつけた、「患者の日課表」から、
彼らが膨大な時間をもてあましているということを察する。
そこで幅氏の最初のアイデアは、
「これまで働きづめで時間が取れなかった方々に、
こんな今しか読めない大作を、じっくりゆっくり読んでもらおう!」というものだった。
インタビューで反応を見てみると、可もなく不可もなくといったところ。
しかしインタビュー10人目のおばちゃんの強烈な一言、
「こんなの絶対に読まないよ!」で自体は暗礁に乗り上げる。
おばちゃんいわく、長い本なんてただでさえ疲れるのに、
手も満足に動かない私たちには到底無理、と。
ではなぜ最初の患者たちは否定してくれなかったのか。
そこには脳梗塞患者特有のインサイトがあったわけです。
彼らは、健康な人が当たり前に出来るとこに対し、
自分がそれが出来なかった場合とてもツライ思いをし、
時に「出来る」という見栄を張ってしまうわけです。
幅氏はそこが最初、気づけていなかった。慮れていなかった。
そこで幅氏は企画の方向を180°転換。
・行間の多い詩や短歌、俳句本
・フリップブック(パラパラ漫画)
・写真集
など、ビジュアルから気軽に入れるものや、
手をコントロールすることで自分のリハビリ進度を自覚できるパラパラ漫画など、
真にリハビリ患者が喜んでくれる内容に選書を変え、
多くの患者さんに喜んでもらえたという、事例。
脳梗塞のことから何も分からない幅氏は観察を開始。
まず目をつけた、「患者の日課表」から、
彼らが膨大な時間をもてあましているということを察する。
そこで幅氏の最初のアイデアは、
「これまで働きづめで時間が取れなかった方々に、
こんな今しか読めない大作を、じっくりゆっくり読んでもらおう!」というものだった。
インタビューで反応を見てみると、可もなく不可もなくといったところ。
しかしインタビュー10人目のおばちゃんの強烈な一言、
「こんなの絶対に読まないよ!」で自体は暗礁に乗り上げる。
おばちゃんいわく、長い本なんてただでさえ疲れるのに、
手も満足に動かない私たちには到底無理、と。
ではなぜ最初の患者たちは否定してくれなかったのか。
そこには脳梗塞患者特有のインサイトがあったわけです。
彼らは、健康な人が当たり前に出来るとこに対し、
自分がそれが出来なかった場合とてもツライ思いをし、
時に「出来る」という見栄を張ってしまうわけです。
幅氏はそこが最初、気づけていなかった。慮れていなかった。
そこで幅氏は企画の方向を180°転換。
・行間の多い詩や短歌、俳句本
・フリップブック(パラパラ漫画)
・写真集
など、ビジュアルから気軽に入れるものや、
手をコントロールすることで自分のリハビリ進度を自覚できるパラパラ漫画など、
真にリハビリ患者が喜んでくれる内容に選書を変え、
多くの患者さんに喜んでもらえたという、事例。
幅氏がインタビューを通じて最も知りたいことが、「何がその人の興味の範囲内なのか」ということ。。前回ログの「宝島とONE PIECE」の話然り、相手の興味の手の届くところと、その外側にあるまだ見ぬ楽しみを、いかに繋ぐか。そのためには前提としての「現状の興味の間合い」をインタビューで知ろうというわけです。
ふとしたキッカケで好奇心の地図はガバーーーっと広がるし、それはまるで未知の大陸を丸ごと見つけたような、ワクワクする気持ちのはず。そして本は、自分の実際の人生以上の範囲へと大きくいざなってくれる、好奇心の地図のような存在なのだと幅氏は言う。本を使って自分の頭の中の好奇心の地図を広げてあげたい。その人の人生を豊かな生き方にいざなってあげたいということこそ、幅氏の根源的な初期衝動なのかも知れない。
「本を読む」という身体性
前回なかった話のひとつとして幅氏は、「読書の身体性」についても語ってくれた。背表紙や紙のテキスタイルを指の腹で感じ、紙のにおいを吸い込み、手のひらや指に紙一枚一枚の重さを捉えながら、思い思いの姿勢で本を読む。どんなにテクノロジーが進んでも絶対に自分の持つ体からは逃れられないわけで、だからこそ、読書という行為が身体性のレベルで気持ちよく、ストレスなく出来るかが変わらず重要なのだと幅氏は語った。
そして懸念として、「身体が本を忘れる恐れ」も同時に指摘した幅氏。いまやライターの方のほとんどがワープロ原稿で、手書きで入稿してくるのはリリー・フランキーくらいだという逸話を聞いたことがあるが、それは「手書きで文章をしたためる」という行為そのものを身体が忘れ、もはや出来なくなっているのかも知れない。読書という行為を身体が忘れるということはにわかに信じがたいかも知れないが、”今年まだ一冊も本を読んでいない”なんて人は実は珍しくないというのも事実。幅氏は半ば”使命”として、読書という身体性をみんなが忘れないように、これからも本を届けていきたいと話した。
本の”遅効性”
最後に質問時間が設けられたのでそこでの内容を少しご紹介。
Q.ひと月に何冊くらい読む??
A.2度読んだり、途中でやめたり、つまみ食いだったりするので冊数は何ともいえない。時間でいうと、一日3~4時間は本を読んでます。読み方は、「自分個人として好き」という場合と、「仕事柄読んでおこう」という場合で、深度や速度の点で違います。
Q.幅さん流の読書術は?
A.書き込みを必ずする。本はあくまでもツールなのでキレイにとっておいても意味はない。使い倒してナンボ。その意味では、「自分の思い・感じたこと」を本に書き、その一冊をオリジナルなものにするのが一番手っ取り早いし、血肉になると思う。なので、僕は本を売らない・貸さない・しまい込まないという原則は絶対に守ってますね。
Q.幅さんにとって、”本を読む”とはどういう意味を持っているのか?
A.食べる行為に近いと思う。自分の中にその本の内容が深く浸透して、血や肉になっていくイメージ。とても気持ちのいい時間。ただ最近は読者も出版サイドも、”答え”や”即効的に売ること”、”メイクセンスしたりためになること”…というものを求めすぎていると思う。本の本当の力は、忘れたころに思いも寄らない形で自分のためになるという”遅効性”にあるんじゃないかと思う。
Q.今後の夢は?
A.自分の店を持ちたい。庭があって、いつでもそこで本が読めて、立ち読みもできて。鎌倉あたりの古い洋館のような物件でそういうことが出来たらなーなんて思っている。
講義から、考えたコト
第一期の時と変わらない、柔和な姿勢で滔々と講義してくださった幅さん。前の講義で感じた、本に対する偏愛は相変わらずだったが、その上で今回新たに感じたのは、「ビジネスマインドのしたたかさ」だった。自分が本当に好きなことを仕事にするうえで、絶対に必要になるのがこの要素で、職業・肩書きそのものを企画した幅氏にとってそこはマストかつ最も難しい部分だったのと思う。出版ビジネスは特にブラックボックスや暗黙の了解が多い世界。サプライヤーになるわけではないにしろ、そのようなしがらんだフィールドにおいて独自の立ち居地を築くには、お金マインドは当然に必要なのだと思う。前回の授業より聞き手の僕がより、実現可能性まで意識するような脳みそで講義を聴いていたということもあるのかもしれませんが。
加えて思ったのは「インサイト」の重要性。千里リハビリテーション病院の事例がまさにそうですが、相手がコトバにできないことをいかに慮れるかこそ、コミュニケーションが介在する全てのドメインにおいて、イノベーションを発見できるか否かの大きな分水嶺であることは間違いないと思う。幅氏の粘り強いインタビュアーとしての姿勢からは、いかに伝える相手・お客様の心理が重要で、かつ一朝一夕で分かるものではないということを思い出させてくれました。
次回、第3回はチームラボ代表取締役社長の猪子寿之氏のレクチャー。業界の風雲児がいったい何を語り、何を見据え、これからどのように動いていくのか。今から楽しみです…
(文・吉田将英)
(文・吉田将英)
千里リハビリテーション病院、
返信削除大学の超近くだったから見学に行ったよ~
うん十万のデザイナーズチェアがぼこぼこ置いてある
セレブ空間でした…。
まあそうなんでしょうね。バリバリのエグゼクティブが頑張ってリハビリする施設なんだと聞きました。
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